原作設定(補完)
□その20
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#200
作成:2016/05/05
「……これはどういうことだコラァ……」
眉間に深いシワを刻み不機嫌そうな低い声で呟いた土方を、沖田は上からひょいと見下ろした。
「誕生日のプレゼントでさぁ」
ニヤニヤと笑う沖田のバックに見えるのは天井。
土方は両手両足をグルグル巻きに拘束されて自室の布団の上に転がされているのだった。
「理由になってねぇぇぇ!!なんで誕生日だからってこんな目にあってんだっ!!」
「近藤さんの命令でさぁ」
「こ、近藤さんの!?」
「“トシは誕生日に休めって言っても全然休まないからなぁ。縄で縛ってでも休ませるしかねーかな、がっはっは”……って言ってたんでさぁ」
「本当に実行するやつがあるかぁぁぁ!!!」
沖田には冗談の通じない……というか、分かっていてやっているだけに性質が悪い。
落ち着くように深呼吸してから土方は言った。
「…分かった。休む。だからもういいだろ、これ解け」
「そいつぁ良かった。せっかくなんで俺からみんなに招待状を出しておきやした」
「……招待状?」
沖田がさっと取り出して見せてくれた招待状には、“土方さんの誕生日に、自分の好きな物をプレゼントしよう”と書かれていた。
悪いことは書いてないのに悪意しか感じないのは、沖田が笑っているからだろう。
「……なんで“自分の好きな物”だよ。せめて俺の好きなモン寄越せよ…」
「マヨ、煙草、焼きそば、旦那…以外に何か好きなモンがあるんですかぃ?」
「さ、さささ、最後のはそんなに好きじゃねーよっ!!」
「へぇぇぇぇぇぇ……ケッ……」
「……ぐっ……」
心底嫌そうな顔をされてそれ以上何か言うのも白々しいと思った土方は、悔しいが黙るしかなかった。
そんな土方を見て満足したのか、沖田はよっこいしょっと立ち上がり、
「それじゃあ、みんなからのプレゼント楽しみにしててくだせぇ」
そう言って部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待てっ!これ解いてけっ!!」
「土方さんがじっとしてねーとみんながプレゼント渡しずらいじゃねーですかぃ。我慢してくだせぇ」
「どんなプレゼント……って、総悟、てめーはねーのかよっ」
引きとめたくて思わず聞いてしまったが、総悟は襖から顔を出してにやりと笑う。
「“ソレ”がプレゼントでさぁ」
沖田の好きな物、それは“土方に対する嫌がらせ”。ゾッと背中が寒くなって口ごもる土方に、沖田は足取り軽く立ち去るのだった。
この状態で放置されるのは恥以外の何物でもないが、誰か来るまで待って解いてもらうしかない。
我慢すること10分後、
「トシぃぃぃ、誕生日おめでとうっ!!」
笑顔の近藤が飛び込んできた。
「近藤さんっ」
「総悟から招待状貰ってなぁ。アイツも可愛いことするじゃーねーかっ」
「そ、そうだな。それはいいからこれ解い…」
「俺からは何を贈ろうか考えたんだけどな、いくらトシでもお妙さんは譲れないから……やっぱりバナナだよなぁ」
そう言いながら大量のバナナの1本を剥いて土方の口に運んでくる。
「……近藤さん、あんたそんなにバナナ好きなわけじゃ……ムゴ、フガッ……」
ゴリラゴリラ言われるうちにバナナか好きと勘違いしてしまっていると進言しようとしたのに、近藤は嬉しそうにバナナを食べさせてくれた。
起き掛けにバナナ単品で食べなければならないのは苦痛だったが、近藤が嬉しそうなので嫌とも言えず、
「もう一本食うか?」
「い、いやっ、もういいっ、後で食うからっ。それより縄を……」
次を丁寧にお断りしつつ縄を解いて貰おうとしたのを、別な声が遮った。
「局長〜。次が詰まってるんですから早くしてくださいよ〜」
「あー、悪い悪い」
廊下からそう言ったのは山崎で、どうやらみんなが順番待ちをしているようだった。
そうして近藤が出て行くと次々隊士たちが副長室に入ってくる。
「副長っ、お誕生日おめでとうございますっ。これ……今度一緒にミントンやりましょうっ」
「……どうもな……」
「副長!誕生日おめでとうございますっ。アニキの新作DVD、フライングゲットしときましたっ!」
「おおっ、よくやったっ」
「副長!お誕生日おめでとうございますっ!俺の好きな……ジャンプですっ!」
「……てめー、ここどこだと思ってんだコラァ」
なんてやりとりを繰り返すことと数十回。
次から次へと出て来るので言いそびれてしまったが、最後の1人が立ち去ったとき、
「…………ハッ!これ解いていけぇぇぇぇぇ!!!」
そう叫んでもすでに誰も居らず、土方はぐったりと目を瞑って溜め息をついた。
みんなが自分の誕生日を祝ってくれたのはとても嬉しいのだが、部屋の中に興味ないものがぎっちり詰まっているかと思うと疲れてしまう。
そして更に疲れる疲れることが続く。
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