原作設定(補完)
□その20
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#199
作成:2016/04/26
「ゴホッ、ゲホッ……うー……」
真選組副長室。
書類を取りにきた山崎は、具合の悪そうな土方に心配の目を向ける。
「大丈夫ですか? 風邪ですかねー」
「…ああ……たぶんな……ゴホッ……」
寒さもだいぶ和らいだこんな時期になって風邪を引くなんて情けない、と思っている土方に、ぬっと姿を現した沖田がにやにや笑いながら言った。
「土方さ〜ん、風邪ですかぃ」
「……違う」
「そういやあんた昨夜は帰りが遅かったじゃねーですかぃ。どこぞの誰かにうつされたのかもしれやせんねぇ」
「違うって言ってんだろーが」
沖田の物言いに山崎は『あーあ』と小さくため息。
近頃土方が非番とか仕事が早目に片付いた日に、よく出かけるのは分かっていた。
今までは屯所に居るか、出かけても屯所の誰かと一緒だったのに、急に1人で出かけるようになった理由なんて1つしかない。
それでも全く女の影をチラつかせないのには事情があるのだろうし、監察と言っても身内を探るような真似はしないので山崎にも相手は分からなかった。
沖田もそれを探れなかったせいか、時々こうやって土方を弄繰り回すのだ。
「……昨日は飲んで遅くなっただけ……ゴホッ……」
それは本当だった。久し振りに時間ができたので酒を飲んで、良い気分で帰ったきた直後から体調を崩していた。
「あとで風邪薬持ってきますね」
「…ああ……頼む……」
「普通の風邪薬じゃ治らないかもしれねーですぜぃ」
まだそんなことを言う沖田に土方は眉を寄せるが、どうやら根拠のない話ではないようだ。
「近頃“カップル風邪”とかいうけったいな風邪が江戸で流行ってるらしいですぜぃ」
「カップル風邪ぇ?」
「…んだ、そりゃ……ゴホッ」
「なんでも、カップルが一緒のときにその風邪に感染すると、一緒といないと治らないとかいう話でさぁ」
言いだしっぺが沖田だけに一概には信用しにくい話だったが、そう言われて土方には心当たりがあった。
+++
酒を飲んだ帰り道、
「くしゅん、くしゅんっ。いやーん風邪引いちゃったみたーい」
「温かくしなくちゃダメだぞ。手が冷たいじゃねーか、ほら、繋いでやるよ」
「うふふ、あったか〜い」
「へっくしゅんっ……あーあ、お前の風邪がうつっただろーが、こいつぅ」
そう言ってイチャイチャくっついているカップルとすれ違ったとき、銀時が憮然とした視線を向けて舌打ちする。
「…ちっ…」
「余所のカップルを睨むな」
煙草をふかしながら小さく笑ってそう言った土方に、銀時は拗ねるように口を尖らせた。
睨みたくもなる。久々に会えた土方とは酒を飲んだだけで、指一本触れずに別れることになるのだから。
お互いがお互いを好きなのだと自覚しながらも、2人には一歩を踏み出すきっかけもチャンスもないでいた。
微妙な距離を空けて並んで歩く2人の間に、春とはいえ真夜中の冷えた風が吹き抜ける。
チラリと土方を見た銀時が思い切って、
「……多串くん、寒くね?」
と訊ねてみたが、
「寒くない」
あっさりそう言われてがっかりと肩を落とす。
「……そうですか」
それでようやく質問の意図を察した土方は、咳払いを一つしてお返しに”思い切って”やった。
「……てめーは?」
「え?」
「てめーは寒いのかよ」
「さ、寒いです」
「ん」
ドキドキしながら答えたら土方は手を差し出してきて、『まじでかっ』と思いながらその手を掴むとぎゅっと握り締めてくれた。
一瞬ヒヤリとした手がすぐに温かくなる。
「あ、あったけーかよ」
「う、うん」
むしろ熱いぐらいだ。気恥ずかしくて2人とも体温が急上昇した気がする。
真夜中で人目はないとはいえ、男2人で何をしてるんだと思いながら、しっかりと手を繋いだまま、
「へっくしゅんっ」
とくしゃみをする2人だった。
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