原作設定(補完)
□その20
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#198
作成:2016/04/12
玄関のチャイムが鳴って、眠りかけていた銀時はゆっくりと布団を出た。
もう一度鳴って面倒くさそうな返事をしようとして、寝惚けていた意識を一気に浮上させる。
微かな血の匂い。
木刀を持っていなかったため緊張感が走るが、それに気付いたのか扉の向こうから声が掛けられた。
「俺だ」
「……土方っ!?」
こんな時間に連絡もなしに来るようなタイプじゃない人物の来訪に、緊張感を解いて扉に駆け寄る。
そして鍵を外し扉を開けた向こうには、強烈な血の匂いを纏った血みどろの土方が立っていた。
「うぎゃぁぁぁぁ!!おまっ、なにその格好ぉぉぉぉ!?」
「風呂貸せ。ついでに泊まってく」
不機嫌そうにそう言って中に入った土方に、銀時はとりあえず玄関の扉を閉めた。
この姿を見た瞬間に胸がぎゅっと締め付けれたが、この様子では大丈夫そうだ。
念のため聞いてみるが、
「それ全部返り血か?お前は?どっか怪我してねぇ?」
「んなヘマするか」
そう言われて今度こそ本当に安心する。
「ならいいけど。どうぞ」
銀時が手を差し出してきたので土方はそれを掴み、靴を脱いで上がった。幸い靴の中までは濡れていなかったので、“ホラーな足跡”は残さずに済んだ。
風呂は抜いてしまったので湯を溜めながら、隊服を脱いでいる土方を振り返り眉を寄せる。
電灯を点けた明るいところで見ると、真っ赤に染まった姿が生々しい。
「そんな格好で歩いて来ちまって、かぶき町に不気味な噂話がたつぞ」
「パトカーで家の前まで乗り付けたに決まってるだろ」
そう言い返されて銀時はきょとんとする。それには理由があった。
「え……だって俺らのこと内緒なんじゃねーの」
だから車なら屯所まですぐそこだというのに、こんな真夜中に万事屋で降りるなんて不自然極まりないのだ。
ところが土方はあっさりと言った。
「ああ、それはもういい。ぶっちゃけてきた」
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土方はずっと機嫌が悪かった。
テロ、政府、真選組。問題を多数抱えて苦労している副長に対し、それぞれがそれぞれに勝手だった。
テロは土方の休日とか、お構いなしに企まれたり実行されたりする。
政府は土方の休日とか休日とか、お構いなしに呼び出して小言や無茶振りを言ってきたりする。
真選組は土方の休日とか休日とか休日とか、お構いなしにストーカーで留守にしたりバズーカ撃って暴れたり言われたことをやらなかったりする。
ずっと抱えてきたストレスは捕物で大暴れしたものの晴れることはなく、帰り道に偶然かぶき町を通りかかったときに爆発した。
「止めろ」
「え……」
「いいから、止めろ」
運転していた隊士が慌てて車を止めると、そこはちょうど万事屋の前だった。
土方がドアを開け、
「風呂に入ってくる。帰りは明日だ」
そう言い出したものだから同乗していた近藤はぎょっとして、ここが万事屋の前だったから更に戸惑う。
「え!?……って、ここ万事屋じゃねーか……トシ?」
ここがまだお姉ちゃんのいるそういう店だったら「そんな格好じゃドン引きされるぞ」と思いつつ納得できた。
しかし銀時の所となると、最近たまに酒を飲んだりして仲良くしているなと思っていた以上の親密さではないだろうか。
しかし土方はそれに対して何も言わず、
「朝までに後始末はちゃんとしといてくれよ」
釘だけ刺して車を降り万事屋に向かったのだった。
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