原作設定(補完)

□その20
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#195

作成:2016/04/03




真選組屯所をこっそり移動し、副長室の障子戸をそーっと開けた。

「ひっじかったく〜ん」

わくわくしながら声をかけたのだが、部屋の主はあいにく留守だった。

銀時はがっかりしながら、堂々と遠慮なく部屋に入る。

ずっと忙しかった真選組がようやく通常業務に戻ったことを近藤のストーカー再開で知った銀時が、土方からの連絡を待ちきれずに忍び込んできたのだ。

「居るはずなんだけどなぁ。ちょっと待たせてもら・・・おお!?」

だったら驚かせてやろうと思ったのだが、土方の部屋には不似合いな甘い香りに目を輝かせる。

文机の上に桃色のまんじゅうが1つ置いてあった。

「土方くん、甘いもの食わないのに……はっ!!まさか俺が忍び込んでくるのを察知して用意してくれたんじゃないのっ!?俺って愛されてるぅ」

机の横に勢いよく座るとまんじゅうを手に取り、

「そんじゃ、早速。いっただっきま〜す」

土方の愛を感じなかがら食べるのだった。




そのころ、土方は山崎と連れ立って早歩きで副長室へ向かっていた。

「ったく、んな物騒なもん、誰か食っちまったらどーすんだっ」

土方の怒りと焦りは分かるが、それはないなと、山崎は小さく笑いながらついて来る。

「大丈夫ですよ。副長の部屋にあるものを盗み食いするやつは居ません」

「近藤さん……は居ないか。総悟……なら別にいいか」

やりそうな二人を思い浮かべながら土方が自室の襖を開けたとき、そこに居た“やりそうなもう一人”の姿に驚愕する。

美味そうにまんじゅうを食べていた銀時が土方の姿を見て嬉しそうに笑うが、土方が見ていたのは銀時の手に握られていたまんじゅうだった。

「てめぇぇ!!何食ってんだぁぁぁ!!」

「えっ……だ、旦那っ!?」

驚きを怒りに変えて部屋に飛び込んでいく土方に、後から続いた山崎も銀時の姿を見て焦った顔になる。

どうやら銀時のために用意してくれたものではなかったようだが、“たかがまんじゅう”と思っている銀時はへらっと笑いながら謝った。

「えっ、ダメだった?ごめんごめん」

が、土方は銀時の胸元を両手で掴むとガクガクと揺さぶりながら怒鳴りつける。

「吐き出せっ!!すぐに吐けっ!!」

「む、むりぃ」

貧乏生活が長いおかげで銀時の体は、せっかく摂取した糖分を吐き出すような勿体無いことが出来なくなっていた。

それを知ってる土方はすぐに次の手段を考えるが、

「山崎っ!今すぐ胃洗浄の処理を……」

「副長……もう遅いです」

山崎に言い難そうにそう言われて言葉を飲む。

二人のあまりの動揺しっぷりに、さすがに銀時も怖くなってきた。

「ええ〜、ちょ、ちょっと……なんなんですか?」

不思議がる銀時に、土方はいろんな感情で全身を締め付けられる。

いくつかの偶然がすべて悪い方向に転がってしまっただけのことだったが、

「……この……バカヤロー」

銀時を責めるように、自分を責めるように、土方は搾り出すような声で呟いた。




副長室で三人顔を突き合わせ、まんじゅうの説明を受ける銀時だったが、

「……ロ、ロシアンルーレットまんじゅう? なんですか、その死臭ただよう嫌な予感しかしないネーミング」

それに加えて先ほどの冗談とは思えない二人の様子からして、どうやら洒落にならないものらしい。

土方も冗談で済ませるつもりはないらしく、眉間にシワを寄せながら悲痛な表情で答える。

「……そのまんまの意味だよ」

それ以上は言いだせそうにない土方の代わりに、山崎が説明した。

「先日過激攘夷党検挙のために隠れ家に乗り込んだんですが、そこには多数の遺体と…そのまんじゅうが残されてました」

本当の死臭が漂っていたようだ。

「現場にはもっと多数の攘夷志士が居た形跡があったため、逃げた奴らを探し出して事情を聞いたんですが……奴らを支援していたという人物から送られてきたまんじゅうを食べたら“半分”が死んだ、と」

確率は二分の一。わざわざ半分だけを殺すための差し入れをする目的が不明だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

念のため、自分が食べたまんじゅうが確かにソレなのだとしても、

「だ、だけどほら、銀さん生きてるしぃ…外れだったんじゃね?」

乾いた笑みで銀時はそう聞いてみるが、もしそうなら二人が今でも暗い顔をしているわけがないことは分かっていた。

「……即効性じゃないんです」

“結果”はこれからだ、と。

「……なんか手はねーの?」

「残されたまんじゅうや遺体の胃の内容物を調べてみたんですが、毒物と分かるような成分は検出されなかったんです」

それでは手の打ちようがない。

警察の技術では検出できないような新種の毒物が半分に入っていたのか、それともランダムで毒物に変化するようなモノが全部に入っていたのか。

それをこれから調べようとしていた矢先だった。



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