原作設定(補完)

□その20
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疲れた……。

そりゃあこんな目にあってるのだから疲れるのは当たり前だが、精神的に疲れた原因は目の前の男のせいだ。

おそらく目の前にいる、おそらく男は、おそらく何か本を読んでいる。

相変わらず目隠しをされ手足は拘束されたままなので、想像でしかない。

口移しで水を飲まされるという醜態をさらしたあとなので、もはや開き直るしかなかった俺は、いろいろ話かけてみた。

「お前は誰だ?」

「俺をどうするつもりだ?」

「誰かの命令か?」

「いま何時ですか?」

すべて無視された。ちっ。

俺を捕まえた奴ら当人じゃないのだけは確かだと思う。

もしそうだったら同志たちを捕獲した俺を、ただ監禁するだけ、なんて真似をするはずがない。

誰かに頼まれてこうしているのだったら説得する価値があるのに。

もしかして口がきけなかったり、耳が聞えなかったりするのだろうか。そのほうがこういう場合の見張りに適している。

深い溜め息をついてから、俺は動かせる範囲で手足を動かしてみた。

手足を縛っている布はしっかりと結ばれていて解けそうにないし、腰には細い鎖のようなものが巻かれていてどこかに繋がれている。

これ以上移動もできないが、じっとしていては手足が硬直してしまうだろう。いざという時に逃げ出せないと困るため、手足を曲げたり伸ばしたり解してみる。

目の前にいる男はそれに気付いているだろうに、やっぱり何も言わなかった。

そして数時間後にまた水と食事が出た。今度は素直に食べてやる。抵抗するのも無駄だし面倒だった。

それから何もやることがない俺はじっと辺りに耳を澄ませる。

まだ昼間、窓から暖かい光が入ってきている。相変わらず外に音はない。

人の話し声、乗り物の走る音、鳥の鳴き声さえしない。

男のめくる本の音が聞えるだけだった。いいな。こっちはこんなに暇だってのに。

神経を張り詰めすぎず緩めすぎずにいたはずだが、あまりにも暇でいつの間にか眠ってしまった。

次に目を覚ましたとき、おそらく夜になっていた。

昼間は目隠しごしでもぼんやりと“明るい”というのが分かったのに、完全に闇だ。そして物音はない。

一人なのか?アイツは居ないのか?

なぜか胸がざわつく。こんな状況なのに、一人でいるのが怖いと思った。

「おいっ」

思わず声を出したら、人の動く気配があった。近付いてくる。

自分で声をかけたくせに“別の人間だったら?”と身構えたが、男は前と同じように水のペットボトルを口元に当ててきた。

「……今はいい……」

そう答えたら男はペットボトルを引っ込め、またもとの場所に戻って座ったようだ。

見ず知らずの俺を監禁するような男なのに、なぜかホッとした。




翌朝……おそらく、翌朝。

男は外に出て1時間ぐらいしてから戻ってきた。またビニール袋を持っている。

買い出しだったのだろう。俺にまた水と食事を出した。

今日も何度か話かけてみたが返事はなく、やることがない。監禁されているのでなければ“三食昼寝つき”なんて贅沢の極みだ。

昼に出された飯を食いながら、おそらくコンビニで買ってきたものだろうが嫌いなものが出なくて良かった、なんてのん気なことを考えた。

もちろんいざというときのために、嫌いなものでも食うしかないけれど。

そんなことを考えていて気が付いた。

おにぎりの具はツナマヨ、パンの中身はハムマヨ、今朝買ってきたばかりの温かい中華まんはエビマヨだった。

……なんで……

今日も壁際で本を読んでいる男を見る。

“アイツ”の姿が瞼に浮かんだ。



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