原作設定(補完)

□その18
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数日後の夜、かぶき町を流れる川にかかった橋から、銀時は川面を見つめていた。

ぼんやりはしていたが、自分に近付いて足を止めた気配に顔を上げる。

隊服の土方が無表情で立っていた。

「……ひさしぶり……」

「…おう…」

銀時は笑って話しかけたつもりだったが、土方は表情を変えず近付いても来ない。

「お仕事帰り?」

「…ああ…」

会えないでいる間にくだらないネタはたくさん溜まっているはずなのに、言葉にできないでいる重い空気に、先に耐えられくなったのは土方だった。

「……じゃあな……」

そう言って銀時の脇を抜け立ち去ろうとする土方の、背中を見た瞬間に胸が苦しくなった。

このまま別れたら二度と触れることができないような予感に、

「土方っ」

銀時が名前を呼ぶと、土方は足を止めた。







着物を着て、帯を締め、それから煙草に火を点け吸って吐く。

眠る背中を見つめて何も言わず万事屋を出て、薄暗いかぶき町の冷えた空気に白い息を広げた。




土方十四郎が万事屋を訪ねて来るようになってだいぶ経った。

最初は酔った勢い。

普段の人を苛立たせるようなことばかり言うときと違い、酔った銀時との会話は楽しく居心地が良かった。

正直口説かれたことは覚えてなくて、酔いが醒めてお互いの姿と体の違和感に、

「まあ、男の子だしっ、よくあるよね、こんなことっ」

「…あるかバカ」

「…ですよねー…」

なんて頭を抱えたが、関係はそこで終わらなかった。

次に会ったとき二人ともそんなに酔ってなかったにもかからわらず、銀時に誘われ、土方は了承した。

それが何度か続いたころ土方は気付く。

体の相性が良いとか後腐れや面倒がないとか、そんな理由だけで銀時を抱かれているわけじゃないことに。

だけど今更青臭いことを言うのも恥ずかしいし、言わなくても通じているような気がした。

いい加減で適当な銀時が理由もなく、土方のような真面目で面白みのない面倒な男に何度もかかわるはずがないと思えたからだ。

そしてお互いが自分の気持ちを言わずに続く関係。

最初は酒を飲んでくだらない話なんかしたり楽しくしていたのに、次第に寝るだけになった。

銀時から電話がかかってくれば土方は出かける。

だが、土方のほうから会いたいと言ったことがない。電話もしないし、町で会っても普通に会話をするだけ。

銀時から連絡をくれる、ということに甘えていたんだと思う。

それなのに急に連絡が無くなって、1週間、2週間、3週間………不安になったころようやく電話がかかってきた。

久し振りに会うのにちっとも嬉しそうじゃないし、何で連絡しなかったのか言い訳もない銀時に、土方の不安は増す。

ワザと連絡しなかったのだろうか、と気付いて何度も聞きそうになった。

「万事屋……なんで俺と会ってるんだ?」

ずっと恥ずかしくて言えなかった言葉が、今は返事が怖くて言えない。




「副長、昨日の報告書……あ、すみません」

開けっ放しだった副長室の襖から顔を出した山崎に、声をかけられてぼんやりしていた意識を戻す。

「………何がだ?」

「え? お電話中だったんじゃ……」

携帯電話を握ったままだった土方を見てそう思ったらしい。

最後に会ってからもう3週間が過ぎた。

記録更新しても銀時から連絡はないのに、土方から連絡することもできないでいた。

何度も携帯を手にとってはみたが、会いたくないのかもしれないと思うと番号を押すことができない。

「………かまわねーよ」

携帯をそのまま懐にしまったが、そこだけがずっと熱を帯びて熱い気がした。




不安を抱えてから銀時に会うのが怖くなった土方は、市中見回りにも出なくなっていた。

そもそも見回りに局長、副長が自ら出る必要はなかったのだが、銀時と関係を持って会うのが楽しいと思うようになってから、見回りのついでにちょっとでも会えないかとわざわざ時間を作った。

そんな露骨なことをしておきながら気持ちも伝えず、伝えもしないのに気持ちが離れたような気がしている自分に呆れる。

「なに景気悪そうな顔してんですかぃ」

背後から急にかけられた声に振り返ると、相変わらずやる気のなさそうな沖田が立っていた。

「べ、べつにんなことはねーよ」

「へーえ」

聞いておきながら興味なさそうな返事をされたが、余計なことを言うとさらに余計なことを言われそうなのでそれ以上は何も言わなかった。

さっさと部屋に戻ろうとする土方に、

「そういえば、旦那に会いやしたよ」

脈絡無くそう言われて、土方は眉間にシワを寄せて再度沖田を見る。

二人のことは知らないはずだし気付かれないように気をつけたつもりだが、沖田は隠し事には目敏いし、ことさら土方の弱点になりそうなことには敏感だった。

「……だからどうした……」

「別にどうもしやせん。ただ土方さんがどうしてるかって気にかけてるようでした」

それだけ言って楽しげに立ち去る沖田の背中を睨みつけながら、土方の胸にもやっとしたものが湧く。

土方をからかっているだろうが嘘は言ってないだろう。

会いたくないから連絡をくれないのだと思っていたが、銀時も自分と同じなのかもしれない。

『……もしかして……』




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