原作設定(補完)
□その18
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自室に戻って正座で深呼吸を数回。
落ち着いて思い出してみると、銀時は「騒ぐだけ騒いで寝た」「添い寝だけ」と言っていたし、心配した“行為”の音声は入っていないかもしれない。
まんまと沖田に唆されておやつ一か月分を提示してしまったのかとも思うが、あの不敵な笑みは無視できず、土方はもう一度深呼吸してからパソコンを出してディスクをセットした。
昨日一日分のデータが保存されていたため、飲んだあと万事屋に現われたらしい時間のデータをクリックする。
酔っ払いの騒がしい声がスピーカーから流れてきて、まだ宴会の途中らしいので早送りしながら先を聞く。
“じゃあ、二次会は俺とスマイルに行くグループとぉ、とっつぁんとエロイおねーちゃんのいる店に行くグループに分かれ………って、なんで誰も俺と一緒に来ないのぉぉおお!!”
“怖い姉御の店よりエロイおねーちゃんの店がいいでーす”
“そうでーす”
“なんだよぉぉ。じゃあ、トシは俺と一緒に……あれ?トシぃ?”
“……俺は……いい……”
“ん?帰んのかぁ?気ぃつけて帰れよぉっ”
どうやら宴会をした店の前で近藤たちと別れて万事屋へ向かったらしい。まったく記憶がないから相当酔っているようだ。
10分ぐらい早送りすると、ガラス戸を乱暴に叩く音が聞えてきて、
“はいはいはいはいはいぃぃぃ! ……って、土方?”
“遅ぇぇええ!!俺を待たせるなんて、てめーは何様だコラァ!!……ひっく”
銀時の言ったとおり、夜中に訪問して騒ぐ自分の声が録音されている。
酔っている自分には自覚がないだけに、音声のみとはいえ居た堪れない気持ちになるものだ。
正直耳を塞ぎたい気持ちだが、本当に何もしていないのか確認したいとも思う。そのまま再生を続けた。
“ったく……酔う前に来てくんないとイチャイチャできないだろうが”
“それだ!”
“…どれ?”
“てめーに聞きてーことがあってわざわざ来てやったんだコラァ!”
“…はいはい、なんですか?”
“てめー……なんで俺と寝てんだっ!”
「!!!!!」
やっぱり聞かなければ良かったと思えるとんでもない自分の発言に、土方はばったりと畳に倒れ込んだ。
精神的に体内の半分ぐらいの血を吐いた気分だった。
『な、ななな、何言ってんだ俺ぇぇえええ!!』
“な……おまっ、何を言い出しちゃってんのっ”
同じ気持ちなのか、銀時もかなり動揺しているのが声で分かる。
これはおやつ一か月分の価値があったかもしれない悶絶していると、スピーカーからはさらに問い詰める自分の声が聞えてきた。
“……言えっ”
“……そんな酔ってたら言ってもムダじゃね?”
“酔ってたって寝てたって大事なことは忘れねぇっ”
食い下がられて銀時は深い溜め息をつき、それから長い沈黙。答える気なのだろうか。
土方はゆっくり身体を起してパソコンを見つめた。銀時の答えを待って息を飲むが、
“くかーっ”
聞えてきたのは自分の寝息。
“お約束ですか、コノヤローっ”
ツッコミを入れる銀時に申し訳なく思いながら、肩透かしを食らったような、ほっとしたような気分だった。
酔っ払って記憶もない自分の行動に責任はとれないが、原因なら分かる。
“……ったく、しょーがねーなぁ……よっこらせっ、と……”
どうやら銀時は寝てしまった土方を運んでいるようだ。目が覚めたとき布団で寝ていたし、隣の和室に連れて行き布団にドサッと横たえる音が聞えた。
今朝、銀時は呆れながらも普通に許してくれたがとことん迷惑をかけていたようで、深く反省する土方だったが本当の反省はこの後に起きた。
寝ている土方の隣に座っているらしい銀時の声が聞える。
“………本当に覚えてんだろうな……覚えてなかったらプッチンプリン10個だからなコノヤロー”
銀時はそう呟いたあと、おそらく寝ている土方の耳元に寄ったのだろう。襟元の盗聴器に囁く声が録音されていた。
“…好きだから…に決まってんだろーが…”
本当に耳元で囁かれたように土方の首筋がゾクリと震える。
初めて聞く銀時の気持ちに顔が熱くなった。
本当はずっと聞きたかった。酔って無意識に行動してしまうほど知りたかった。
『なんで俺と寝てんだ』
酔った勢いとなんとなくで続いてきたわけじゃないのが自分だけなのか、確認したかった。
“……寝てるやつに何言ってんだ、俺……”
身体を起しながら照れくさそうに言って、銀時は隣に寝転ぶとそのまま眠りについたようだ。
静かになったパソコンを見つめて、土方はきつく手を握り締めた。
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