原作設定(補完)
□その18
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味噌汁の匂いで目を覚ました土方は、見覚えのある部屋を目だけで見回す。万事屋だというのはすぐに分かった。
身体を起すと同時に激しい頭痛。そして身体に残る酒の匂い。
ゆっくりと立ち上がり物音のするリビングへの襖を開けると、銀時がテーブルに朝飯を並べていた。
「おはようさん」
「……おう……」
答えながらふらふらと歩いてソファに座り、銀時が出してくれた味噌汁を飲む。
酒が残る朝には味噌汁を飲みたがる土方のために、わざわざ作ってくれたものだと分かっているからだ。
それから一度大きく息を吐いてから銀時に問いかける。
「……俺、なんでここに居るんだ?」
土方の向かいに座って自分の朝食を食べていた銀時が、土方をチラッと見て呟く。
「……やっぱり覚えてねーじゃねーか……」
「あ?」
声が小さかったので聞き返したら、わざとらしいぐらいの溜め息を付いて教えてくれた。
「夜中にでろんでろんに酔っ払って押しかけてきまして、ギャーギャー騒ぐだけ騒いで寝ちまいやがりましたんですよ」
「…う…」
「土方くん忙しくて銀さんだいぶご無沙汰だったのに添い寝だけとか、どんな拷問ですか」
酔った勢いとなんとなくで続いてきた関係だったけれど、そんなふうに言われれば申し訳ないなと思うわけで。
「……悪ぃ……」
「いいけど。仕事終わったんだろ?できるだけ早く時間とってくれるとありがたいんですけど」
「…分かった」
土方がそう答えると銀時が嬉しそうに笑う。それだけで二日酔いの頭痛が晴れるようだった。
銀時と朝食をとって屯所に帰ってきた土方を、同じように二日酔いの隊士たちが迎えてくれる。
土方がついつい飲みすぎてしまったぐらいなので、屯所内は死屍累々と化していて今出動がかかったら使い物になりそうになかった。
そんな中、元気いっぱいの声が土方を余計に疲れさせる。
「土方さ〜ん、おかえりなせぇやし」
「…総悟…」
わざわざ挨拶をしてくるなんて嫌な予感しかしない。案の定、
「旦那の味噌汁は美味しかったですかぃ?」
なんて言われたので、土方は眉間にシワを寄せる。
銀時のことはもちろん誰にも言ってないし、万事屋から朝帰りしたと知られているのは腑に落ちない。
「なんで知ってんだ……まさか……」
最近非番のたびに出かける土方を怪しんでいたフシがある沖田だけに、後でも着けられたかと思ったのだが、聞かれた沖田はにやりと笑った。
「そんなことしねーですよぅ。土方さん、昨日仕事帰りにそのまま飲みに行ったこと覚えてねーんですかぃ?」
それは覚えてる。
ひと月近くをかけて捜査した大規模なテロを、未然に防ぐことができたお祝いに松平からの大盤振る舞いで宴会になったのだ。
なにせ土方自ら“雇われ攘夷志士”として潜入捜査に出たぐらいの大きな仕事だった。
大変だった日々に思いを馳せていた土方は、ふとあることに気が付いた。
「!!!」
そして着ている着物の襟をぐいっと掴んでめくり、そこに付いている“超高性能盗聴器”の存在を確認し全身に冷たい汗が流れる。
近藤たちとの連絡用と証拠音声を保存するために付けていたものだ。
これが付いたままだということ、沖田が万事屋からの帰宅を知っていたこと。
「……お、おまえ……な、なんか聞いたのかっ!?」
土方の脳裏に浮かんだのは、銀時と会えば当然そうなるであろう“行為”のことだ。銀時と“仲良く”している音声なんて、考えるだけで死にたくなる。
だが沖田はしれっとした顔で、
「聞いたというか……録音されてやす」
そう言って一枚のディスクを懐から取り出した。
即座に反応した土方がそれを取り上げようと手を伸ばすがかわされる。さらに手を伸ばすがまたかわされる。
それを数度繰り返した後、
「……おやつ二週間分っ」
買収することにした。が、当然粘られるわけで。
「一ヶ月」
「……三週間分」
「……」
「……」
「……」
「……分かった、一ヶ月分だな」
「毎度ありっ」
“おやつ一か月分”で納得してくれるあたり、完全に“面白がっているだけ”の沖田の手からディスクを奪うと、土方は副長室に駆け込んだ。
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