原作設定(補完)
□その18
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#178
作成:2016/02/08
昼寝に頃合の半端な時間に、土方がひょっこりと隊服のまま万事屋にやってきた。
「あんれ、めずらし」
「……ん」
その浮かない顔を見れば何を言いにきたのは想像がつく。
「悪い、今日の約束ダメんなった」
案の定な話に、いつもだったら銀時も仕方ないと笑うことができた。申し訳ないと思っているから忙しいのにわざわざ直接言いにきてくれたのだ、と。
だが今回はドタキャン5連続、一月近くまともに会えてない上に、いろいろ負の要因が重なっていた。
相変わらず仕事をとってこれない社長に対し、従業員から忙しい土方と比較されて嫌味を言われたり、大家に家賃滞納をグチグチ言われたり、パチンコで負けたり、いちご牛乳は売り切れてたり、痔の忍者にジャンプを横取りされたり。
どれも自業自得でくだないことだったが、だからこそ土方に会って気分を変えたかったのだ。
「万事屋?」
「……かまわねーよ、お仕事大好きだもんね、土方くん」
言っている内容はいつもと同じだが、トゲトゲしい言い方に土方が眉間にシワを寄せる。
「…なんだよ、その言い方」
「間違ってねーだろ。いいんですよ、銀さんは別にほったらかしでも。どうせそんなに好きなわけじゃねーんだろうし」
その言葉はさすがの土方にもショックだった。
銀時がいつも許してくれるので甘えていたかもしれないが、悪いと思っているのも本当だし、会えなくなってがっかりしている。
それをちっとも分かっていない銀時に、『好きでもない奴なんかに、あんな痛い思いして抱かれるわけねーだろ』と怒鳴ってやろうかと思ったのに、自分が思っている以上に傷付いていたようだ。
言葉の変わりになぜか涙が流れた。
「!!? ひじ……」
銀時がものすごく驚いたのと同じように、土方も自分が泣いていることに驚き、そのまま万事屋を飛び出した。
仕事の途中で話だけするつもりで立ち寄ったので、店の前で待機していたパトカーに乗り込むとすぐに車を発車させる。
銀時も裸足のまま追いかけてきたが、すでに土方の姿は無かった。
以後、土方は万事屋から携帯への着信にも出ないし、市中見回りにも出なくなった。
付き合ってることを誰にも教えていないせいで、屯所へ直接来たり電話をしたりすることはない。銀時なりに屯所での土方の副長としての立場を考えているのだ。
唯一連絡がとれる方法が携帯電話だったので、最初は数時間おきに着信があった。
あの日以来、常に無反応に設定しているため、手の空いたときに見ると履歴に並ぶ万事屋の文字。それに折り返すことはなかった。
なぜそこまで意固地になっているのか、土方にもはっきりは分からない。
自分が悪いし、銀時はいつでも我慢してくれているんだと思う。
仕事で疲れていても嫌なことがって苛立っていても、銀時がへらへら笑って一緒に居てくれるのが嬉しかった。
土方が自分の立場もプライドも捨ててまで一緒にいる意味を、理解してくれていると思っていたからこそあの言葉は心に痛い。
だったら付き合わないほうがいいんだろう、と思えた。
銀時もそう思っているのかもしれない。履歴の数が日に日に減っていく。
当然だ。面倒なだけの土方を相手にいつまでも執着することはない。
このまま連絡を取らなければ諦めるんだろうな、と思った翌日、銀時はやってきた。
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