原作設定(補完)
□その18
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#177
作成:2016/02/07
まだ太陽も出ていない時間、屯所の副長室にこっそりと忍び込む姿があった。
連日の激務で熟睡している土方が起きる気配がないと分かると、床に身体を伏せキョロキョロと見回す。
そして床に落ちていた髪の毛を一本発見すると、それをつまんでニヤリと笑う沖田だった。
翌日、激務は終わってもそれで休めるわけではなく、土方は副長室で書類整理に詰めていた。
そこへドカドカと乱暴な足音を立てて近付いてくる音に、近藤かな?と筆を止めた土方は、襖を開けて入ってきた人物に目を丸くする。
「はーい、土方くん、お邪魔しますよ〜」
「よ、万事屋!? な……なにしてんだてめー」
驚く土方に銀時は不機嫌そうに眉を寄せたが、その理由を言い終わる前に、
「あ?呼ばれたから来たんだろー……が……え?」
「……あ?……」
土方が立ち上がり近付いてきて、銀時にぎゅーーーーっと抱き付いたことで二人とも呆然となる。
「何してんのお前」
「違っ…俺じゃない!」
慌てて土方は離れようとするのだが、自分の意思に反してまたぎゅっと抱き締めてしまう。
銀時が怪訝そうな顔で土方を見た。
「“お前”じゃねぇって何よ。トッシーか?トッシーなのか?」
「て、てめーが何かしたんじゃねーのかっ!?」
「何かって、抱きついてんのは土方くんのほうなんですけど」
「だから、なんか…磁石的なものを…」
「なんなのソレ、どうすんのソレ。俺とお前の体内に仕込んで引き合っちゃうとかですか?」
自分が無茶なことを言ってるのも分かってるし、もちろん磁石的なモノじゃないのは自分の身体なので分かる。
確かに抱き付いているのは土方のほうからだった。
パニックに陥っている土方を、銀時は呆れたような声で追い詰める……というより、面白がっているのかもしれない。
「もしかして俺をハメようとしてる?」
「あ?」
「真選組副長に対するセクハラとかで逮捕しちゃおうって気なんじゃないの」
「なんでそんなこと…」
「俺を見かけるたんびにつっかかってくるとは思ってたけど、まさかそこまで嫌われてるとはな〜。銀さんごっさショックゥゥ」
全然ショックじゃなさそうに銀時はそう言ったが、土方は抱き付いていた身体を離し真剣な顔で銀時を見て、
「そうじゃねぇ!!むしろ、好き……っ……」
勢いで言ってしまった本当の気持ちに土方は、適当に誤魔化せばいいものを顔を赤くして目を反らすしかなかった。
だから銀時も適当にはぐらかすことができない。
「……好きって……まじでか」
「違うっ!!…や、じゃなくて……」
土方は今度こそ慌てて言い訳をしようと思ったが、何か可笑しいことに気が付いた。
「…てめー、呼ばれたから来たって言ってたよな?誰に呼ばれた?」
「沖田くんだけど」
「!! 総ぉ悟ぉぉおおおおお!!!!」
なんでもっと早く気が付かなかったのだろうと後悔しても遅い。
土方の怒鳴り声を聞いて、残念そうな顔をした沖田が押入れの襖を開けて出てきた。
「ちっ」
覗いていたらしい。
頭にたんこぶを作った沖田が差し出したのは、不細工な形をした人形。ヘタクソだが土方に似せているのがなんとなく分かる。
「……なんだこれ……」
「操り人形でさぁ。髪の毛を入れて操ると……この通り…」
沖田が人形の片手片足を指でつまんでぐりっと変なポーズを取らせると、沖田の前で仁王立ちしていた土方の身体が勝手に同じポーズになった。
「て、てめっ…やめろやっ……」
土方の意識ははっきりしているし苦情は言えるが逆らえないようだ。
かまわずグリグリと手足を捻ろうとする沖田の手から、銀時がひょいと人形を取り上げる。
「そろそろ勘弁してやってよ、300円あげるから」
「わぁい、やったぁ」
棒読みでわざとらしく喜んだ沖田は、銀時からちゃんと300円受け取って部屋を出て行った。
解放された土方が悔しそうな顔をしながら手足を擦っていると、
「……ったく、あのやろ……」
「さっきのも操られたの?」
銀時がそれを見ながら聞いてきた。
「あ?」
「“好き”っての」
「……そ、それは……」
あまりの事態にソレを忘れていた土方が、動揺しながら何て言って誤魔化そうかと考えているのを銀時は察した。
人形を畳の上に置くと、土方に向かって両手を広げる。
「もっかいぎゅーってしてくれたら返事聞かせてやるよ?」
「…な…」
“ハグ、カモン”な体勢の銀時に、土方は何か言ってやろうとするが言葉が出ない。
「ほら。返事聞きたくね?」
「……っ……」
銀時の笑顔とおねだりに逆らうことができるはずもなかった。
もう操られていないはずなのに、土方は引き寄せられるように銀時を抱き締めた。
おわり
いろいろ急展開な話ですが……イチャイチャできてるので良しとしましょう(笑)
銀土における沖田の存在って本当にオイシイよね。