原作設定(補完)
□その18
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#175
作成:2016/02/02
着物を着る音、帯を締める音、それから煙草に火を点け吸って吐く音。
深夜の万事屋の和室に流れる音を、銀時は目を閉じたまま背中で聞いていた。
そして言葉なく玄関まで出て行く音を聞いてから、静かな部屋に大きな溜め息を響かせる。
土方十四郎が万事屋を訪ねて来るようになってだいぶ経った。
最初は酔った勢い。
普段の眉間にシワを寄せた顔とは違い、酔った土方はムダにエロくて銀時から誘った。
酔いが醒めてお互いの姿と体の違和感に、
「まあ、男の子だしっ、よくあるよね、こんなことっ」
「…あるかバカ」
「…ですよねー…」
なんて頭を抱えたが、関係はそこで終わらなかった。
次に会ったとき二人ともそんなに酔ってなかったにもかからわらず、銀時は誘い、土方は了承した。
それが何度か続いたころ銀時は気付く。
体の相性が良いとか後腐れや面倒がないとか、そんな理由だけで土方を抱いているわけじゃないことに。
だけど今更青臭いことを言うのも恥ずかしいし、言わなくても通じているような気がした。
生真面目で融通のきかない土方が理由もなく、銀時のような得体の知れない男の誘いに何度ものるはずがないと思えたからだ。
そしてお互いが自分の気持ちを言わずに続く関係。
最初は酒を飲んでくだらない話なんかしたり楽しくしていたのに、次第に寝るだけになった。
銀時が電話をかければ土方はやってくる。
だが、土方のほうから会いたいと言われたことがない。電話もないし、町で会っても普通に会話をするだけ。
それに気付いた銀時は、“自分が連絡するからか?”とワザと連絡を取らずにいてみた。
1週間、2週間、3週間………我慢できずに電話をかけてしまった。
土方はやって来て、“忙しくて連絡できなかった”と言い訳も、“なんで連絡しなかったんだ”と咎めることもしない。
何度も聞きそうになった。
「土方……なんで俺と会ってんの?」
ずっと恥ずかしくて言えなかった言葉が、今は返事が怖くて言えない。
「銀さん、どうしたんですか?」
新八に声をかけられてぼんやりしていた意識を戻す。
「………何が?」
「ずっと電話見つめてますけど、かかってくるんですか?」
最後に会ってからもう3週間が過ぎた。
記録更新しても銀時から連絡する気にはなれず、やっぱり土方から連絡がくることもない。
「………かかってこねーよ」
そう答えたら新八が何か言っていたが、銀時の耳には届かなかった。
連絡もしないまま土方を避けていた銀時だったが、昼間ふらりと団子屋に立ち寄るのを再開していた。
土方に会いたくて、会える確率が高くて日参していたのだが、どうやら最近はあまりかぶき町に出てこないようだった。
『……向こうも避けてんのか……』
自分から連絡もしないのに、避けられるのが悲しいと思うなんて勝手な話だ。
「相変わらず景気悪そうな顔じゃねぇですかぃ」
団子片手にぼーっとしていた銀時に掛けられた声に、一瞬ドキリとした。声の主が沖田だというのは分かったが、一緒に土方が居る確率が高かったからだ。
だが視線を向けた先には、こちらも相変わらずのやる気なさそうな沖田が一人立っていて、店員に団子を注文しながら銀時の隣に座る。
「逆だからね。依頼殺到でヘトヘトになってるんだからね」
「へーえ」
全く信じていないような返事をされたが、嘘なのでそれ以上は何も言わなかった。
しばらくの間、黙って二人で団子を食べていたけれど、沈黙が苦しいので銀時は気になっていたことをさり気なく聞いてみる。
「そういえば、最近副長さんの姿見ないけど……」
「屯所で大人しくしてやすよ。そもそも見回りに局長、副長が自ら出る必要はねーのに、やたら見廻りに行きたがってただけなんで。最近はおかげで仕事がやりやすくて助かってまさぁ」
「……サボりやすいの間違いじゃないの……」
団子のおかわりをしている沖田は、先ほどまでのやる気なさとはうってかわって煌いていた。
それだけのやりとりだったがいろいろ納得がいった。ぷらぷらしているとよく土方に会えた理由、今会えないでいる理由。
そして湧く疑問。
『……もしかして……』
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