原作設定(補完)

□その18
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#173

作成:2016/01/30




万事屋に鳴り響いた電話に出た銀時が、相手の声を聞いて嬉しそうに笑みを浮かべた。

久し振りの電話にたわいも無い会話を繰り返したあと、土方が本題に入る。

『次の休みは昼間から出れる……たまにはどっか行くか?』

「まじでか!行く行く、行くに決まってますぅ。いつ?」

『来週の木曜だ』

「木曜…………あ……」

カレンダーを見た銀時の表情が一瞬で曇った。それは顔の見えない電話の向こうの土方にも伝わる。

『万事屋?』

「……悪ぃ、その日は……無理だ……」

『仕事か?』

「……ん………あ、でも夜は……大丈夫だと思う……」

『分かった。じゃあいつもの時間にしよう』

「……ごめん……」

しおらしい声で謝る銀時に、

『何だ、らしくねーだろ』

土方が笑ってそう言うから、銀時も声だけで笑ってみせた。

電話を切ったあと、本当なら土方と次の約束をしたりするとニヤニヤして新八たちに気味悪がられるはずなのに、銀時は置いた受話器をじっと見つめて眉を寄せる。

電話を切っただけなのに、土方との繋がりまで切れたような強い焦燥感が胸に湧いてきた。




銀時の約束が夜になってしまった土方は、結局やることがなくて仕事をしていた。

市中見回りをサボろうとしていた沖田を連れ出してかぶき町を歩いていると、神楽と新八が歩いてきて土方たちに気付いて挨拶をしてくる。

「こんにちは」

目が合ったと同時に睨みあった神楽と沖田を無視して、その場に居ない姿を新八に問いかけた。

「アイツは?……一人で仕事か?」

「銀さんですか? いいえ、毎年この日は仕事はしないんですよ」

土方が今日銀時と昼間に会う約束を断られているのを知らないのだろう、新八が正直に教えてくれたことに神楽が補足を入れてきた。

「銀ちゃん、墓参りアル」

「墓参り?」

「あ、銀さんから聞いたわけじゃないんですけど…家族はいないって言ってたし…なんとなくそうかな、って」

二人も家族を亡くした経験がある。一人で出かける銀時を見送りながら、身に覚えのある悲しみを感じ取ったのかもしれない。

電話で話したときに感じた「らしくねー」はそのせいだったのだろうか。

思い出すのは笑っている顔ばかりなのが、今の土方には少し辛かった。




音の無い冷たい空気の中に、地面を踏みしめる足音が響く。

今年は雪がないせいで焼け落ちた建物が黒く目につき、煙の匂いまで漂っているような気がした。

敷地の片隅まで歩いて行くと、小さい石の前に小さい花がふたつ。

銀時は小さく笑うと、その隣に持っていた花を置く。

「…今年も全員揃ったぞ……嬉しいかよ……」

呟いた問いかけの返事は、風にのって消えていった。




夜も更けて待ち合わせの居酒屋も騒がしくなってきたころ、店に入ってきた銀時は土方の顔を見つけて笑う。

「おまたせ」

いつもの顔だ。だから、土方も笑った。

土方を笑ったり怒ったり呆れさせるために、銀時はバカな話を繰り返りながら酒を飲む。

そして良い気分になったら万事屋に行き、激しく求め合って会えなかった時間を埋めていく。

いつも通り。

銀時が土方に何も気付かれなくてそう振舞うのなら、土方も何も知らないフリをするしかなかった。




真夜中、土方は目を覚ました。

銀時と一緒だと帰る時間までぐっすり眠ってしまうのが常だったのに、まだ部屋は暗く夜明け前の静けさだ。

土方を起したのは押し殺すような声。部屋の中には隣で眠りについた者の他に誰も居ない。

「……万事屋?」

名前を呼ばれ、土方が朝まで起きないことをよく知っていた銀時は伏せていた顔を思わず上げてしまった。

それは一瞬ですぐに顔を反らしてしまったけれど、土方は見逃さない。赤い瞳の双眸に浮かんだ涙。

こんなに側に居るのに何も言わず声を抑えて泣く。寂しいけれど、それは土方にも覚えがある感情だった。

銀時に腕を伸ばして胸元に引き寄せると、柔らかい髪に指を埋めてぎゅっと抱き締める。

今だけ、らしくなくても縋って欲しい。

子供をあやすように頭を撫でられ、銀時は土方が何かを知っていて、それでいて黙って慰めてくれているのに気付いた。

会わなければ良かったのだけれど、あの日切れた繋がりを取り戻したくてどうしても会いたくなったのだ。

何も言わない土方に、躊躇いがちに背中に腕を回してぎゅっと抱き締める。

今だけ、らしくなくても縋らせて欲しい。

何も持たなかった自分に全てを与えてくれた存在を失くした日に、暖かい身体を確かめたらよけいに涙が溢れてきた。

「……っ……ふ………」

小さく震える肩を抱きながら、土方も目を閉じた。




まだ薄暗い朝に目を覚ました土方は、すでに隣にない温もりを探しに布団を出る。

台所から聞えた水音が止んで、タオルで顔を拭きながら銀時が戻ってきた。

土方を見て笑う。いつものように。

「おはよ、多串くん」

だから土方も笑う。

これからも何も言わないし、何も聞かない。

それでいいんだと思った。



 おわり



泣いてる銀さんを描きたいと思って考えた話でした。
原作もアニメも、銀さんってちゃんと泣いたシーンが無いなぁ……と。
例の話が出るずっと前に出来てたんですが、やっぱり泣かれちゃうと悲しくなりますね。
うちの銀さんにはいつもへらへら笑って幸せでいて欲しい。頑張ります。

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