原作設定(補完)
□その18
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#171
作成:2016/01/28
屯所の副長室で、難しい顔をして電話を睨むこの部屋の主。
もうかれこれ30分近くこうしているのは、電話をしなくちゃいけないけれど、電話をするのが憂鬱だからだ。
電話の向こうでネチネチ文句を言う憎たらしい顔が目に浮かぶ。
だったら電話しなければいいのに悩んでいるのは、その次を読む癖のせいだった。
このまま電話もせずに呆れられて会えなくなるのは嫌だな、と思うから。
大きく深呼吸を二回してから受話器を取り、電話番号を押す。
呼び出し音が2回、3回……7回、8回……もう出ないかと思ったとき、聞きたくて聞きたくない声が耳に届く。
『はい、万事屋銀ちゃん』
「……俺だ」
『……どちらの俺さんですか?もしかして詐欺……』
「土方だ」
分かってるくせにふざけた物言いをする銀時に、怒鳴りたいのを堪えたのに、さらに追い討ちをかけてくる。
『どちらの土方さん?』
「……てめー」
『ああ、もしかして“三週間も会えない上に三日前の約束をすっぽかした仕事のお忙しい真選組”の土方さん?』
反論のしようがない。仕事に没頭するあまり、“せめて酒ぐらい一緒に飲むか”と約束したのを思い出したのが今朝だった。
ので、素直に謝ってみた。
「……それは……悪かった……」
『警察が嘘ついちゃダメだよね〜。だから納税者は安心して暮らせないんだと銀さんは思うんだよ』
“消費税ぐらいしか納めてねーくせに”とは言わない。
「悪かった」
『楽しみにしてたのに、閉店まで一人で待ち続けた銀さんの寂しさが分かるかな〜、分かんないだろうな〜』
“だったらさっさと帰ればよかっただろうが”とも言わない。
「……悪かった」
『お詫びの電話があるかと待ってれば、まさか三日も気付かないとは思わなかったね、さすがの銀さんもっ』
「………悪かった」
『仕事ばっかりしてるから記憶力悪くなっちゃうんじゃないの?自分からした約束を忘れるとか、大丈夫ですかぁ?』
「…………悪かった」
『なんでもかんでも仕事仕事で許されると思ったら大間違いだしね。大人としても男としても全然ダメだから』
「………………った」
『あ?聞えませんけど?』
我慢の限界だった。
「悪かったって言ってんだろうがぁぁあああ!!!俺だっていろいろ我慢してんだ!!自分だけが我慢してると思うんじゃねーぞコラァァ!!」
一気に怒鳴り散らしてそのまま受話器を叩き付けるように下ろした。
そのころ、万事屋。
微かに聞こえた怒鳴り声のあと受話器を静かに下ろした銀時を、ソファに座った新八と神楽が見つめる。
難しい顔をしている銀時になんて声を掛けようかと思ったとき、再び電話が鳴った。すぐに出る銀時。
「は……」
『…明日の夜、いつもの店……来たくなきゃ、来なくていいから』
言いたいことだけ言って切れた電話に、銀時は安堵のふかーい溜め息をつく。
すっぽかされて怒っていたのが翌日。翌々日は何かあったのかと心配し、三日目の今日はもう連絡をくれないんじゃないかと不安になっていたのだ。
本当は電話がきて嬉しかったのだがついノリでいろいろ言ってしまったが、それも土方はちゃんと分かってくれたらしい。
にやける銀時に、
「良かったですね、銀さん。ずっとヘコんでてそろそろ鬱陶しいなぁと思ってたところですよ」
「意地張るからアル。銀ちゃんももっと大人になるネ」
容赦ないことを言う子供たちだったが、ダメな大人には聞えていないようだ。
きっと土方は、“良かった、怒ってなかった。次の約束もしたし、また会える”、なんて自分と同じことを考えてるんじゃないかと、笑ってしまう銀時だった。
おわり
……すみません。冒頭を思いつきで書き始めたら、なんだかオチがぱっとしないで終わってしまいました。
いつもどおり、喧嘩しながら愛を育んで欲しいな、という話?(笑)