原作設定(補完)

□その17
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あれからだいぶ時間が経過し、2人が進む穴は狭くなってきた。

それを不安がる“お前”の手をぎゅっと握って歩いていた“てめー”が立ち止まる。

「…ど、どうした?」

「……空気が変わった」

「あ?」

「外の空気が入ってきてるのかもしれねー」

そう言われてみれば、ずっと息苦しかった呼吸が楽になっているような気がする。外の空気、ということは出口が近いのかもしれない。

「ホントか!?」

そう言って、手を引かれながら少し後ろを歩いていた“お前”が“てめー”の隣に進んできたとき、ぐっと踏み込んだ足元が……ずこっと抜けた。

「あっ!」

「え……ちょ……またかよぉぉおお!!」

“お前”が横穴に落ちると、当然手を繋いでいる“てめー”も引っ張られる。

一応踏ん張ってみたのだが濡れているので堪えきれず、自分で言った「最後まで道連れ」を思い出し手を握り締めたまま一緒に穴に飛び込んだ。

幸い落下はすぐ終わったが、穴が傾斜しているらしくそのまま滑るように落ちていく。ここに流れているのも泥水のようで全身が再び泥にまみれていく匂いがした。

スピードが出ているためにどこかを掴んでも止まれそうにない。“てめー”は掴んだ腕を持ち上げるように引っ張ると“お前”の身体を抱き締めた。“最後まで道連れ”で居られるように。

“お前”もその意図に気付いてしっかりと抱き付いた。二度までも自分のせいで危険に目に合わせておきながら一緒に居てくれようとしているのが嬉しくて、心の中で謝罪を叫んだ。

「ごめんっ!またこんな目に合わせてごめん!助かったらなんでもするからっ……」

「まじでか!」

「……あ?こ、声に出ててたかっ!?」

「そんじゃ、助かったらさっきの…づ…」

「何っ?聞えねーっ!」

「ちゅーのつづ……」

のん気な会話はそこで止まった。傾斜がさらにきつくなったようで、落下するスピードが上がる。この先に待っているのは行き止まりか更なる落下か。

お互いの身体を強く抱き締めたとき、狭まった穴に身体をあちこちぶつけながら勢いよく突っ込んで行った。

そして、突然の圧迫からの解放、浮遊感、落下、衝撃、さらに衝撃。

「ぐっ!」

「いったぁぁぁああ!!」

最後の衝撃で受けた痛みをに声を上げる2人に、

「おいおい、どっから出てきたんだ?」

そう声が掛けられた。慌てて身体を起し目を開けたが眩しさに再度目を瞑り、少し時間を置いてからゆっくり目を開ける。

夜は明け、雨は止み、太陽の光が2人を照らしていた。

「で……出られた?」

「……そう、みてーだな」

辺りを見回すと、自分たちを囲む数名の大人と、泥水の流れ出て来る壁に空いた穴、その前に置かれている泥まみれの荷車が見えた。

どうやらあの穴から飛び出し、荷車にぶつかって地面に落下したようだ。

「大丈夫か、坊主ども」

「お、おう。おっちゃんたち、俺たちを助けに来たのか?」

「いや?隣の町に続く橋が壊れてな、足止めくらってるところにお前らが飛び出してきたんだぞ」

そう言ったおっさんの言うとおり、川が流れていてそこに掛かった橋が半壊していて、通れなくなった人々が集まっている。

偶然だったけれど、橋が壊れて荷車がここに止まってなかったら、穴から飛び出した勢いで川に落ちていたかもしれない。

座り込んでいる“お前”に、先に立ち上がった“てめー”が手を差し出した。

ようやく明るいところに出れたのにお互い泥まみれで顔も分からないのが可笑しくて、“お前”が笑いながらその手を取って立ち上がったとき、

「坊………十……朗……坊ちゃんっ!……」

微かに聞こえた声に身体を強張らせた。

声のしたほうを見ると、壊れた橋の向こう側に見覚えのある顔が立っていて、こっちを見て手を振っている。

「…やべっ」

「え、おいっ、お前っ!」

“てめー”に声をかけられたのは分かったが、ここで捕まって連れ戻され兄に困った顔をされたら家出しにくくなる。

集まっている人の間をぬって“お前”はその場から逃げ出した。





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