原作設定(補完)
□その17
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“お前”は体の右側にずっしりとした重みと温もりで目が覚めた。はっきりとは見えないが、自分に寄りかかってぐーぐー寝ている“てめー”が居た。
“俺が守ってやるからお前は寝てろ”風なこと言っておいて、自分より熟睡しているのが憎たらしいので鼻でもつまんでやろうかと思ったとき、繋いだままの手がぎゅっと握られる。
そして目を開けて体を起すと辺りを警戒し出し、空気がピリッと張り詰めたような気がした。
「…おい?…」
「しっ」
不安げに声を掛けようとした“お前”を制し、じっと耳を澄ませていた“てめー”が何に気付いたのか、数秒後分かった。
雨音に混じって微かにゴゴゴッという地鳴りがどんどん大きくなる。
「…な、なんだ?…」
“お前”が繋いだ手に力を込めると、“てめー”は庇うように体を壁に押し付けて抱き締めてきた。
それと同時に全身を突き上げるような衝撃を感じ、“お前”も“てめー”の体にしがみつく。
大きな揺れは一瞬のことだったが、穴の外から大量の土砂が入り込み二人の足元まで流れてきたが、幸い埋まらずに済んだようだ。
揺れが収まると“お前”は小さく震えた声で聞く。
「……じ、地震?……」
「違うな。たぶん、上の崖が崩れたんだと思う」
“てめー”は“お前”の肩をポンポンと叩きながらそう答え、それがまるで子供をあやすかのようだったので慌ててしがみついていた腕を離した。
“お前”を置いて立ち上がり“てめー”が辺りの様子を見にいったのが分かる。
しかし先ほどまではうっすらと見えていた穴の中が全く見えない。外からの淡い光が届いていない。
「しかも、崩れてきた木で穴が塞がれちまってる」
だから真っ暗なのだ。
「じゃあ、俺たち出られないのか?」
「……それどころか、この様子だと外はもっとマズイことになってる。誰も山に登ってこないかもしれない」
それは誰も助けに来ない、誰も2人に気付かないということ。
「…っ…」
途端に“お前”に強い絶望感と悲しみが沸きあがるのを“てめー”は感じ取った。
人はそんなとき、誰かのせいにして喚き出したり、悲嘆的なことを繰り返したりする。
それを聞くのが嫌で顔を背けようとした“てめー”に、“お前”は申し訳なさそうに呟いた。
「……ごめん……てめーまで巻き込んじまって……ごめん……」
そう言わせたのは、心に残る罪の意識。自分のせいで誰かが犠牲になることへの深い贖罪。
どこかのボンボンのお気楽な家出かと思っていた“てめー”は、落ち込んでいる“お前”には悪いが吹き出してしまった。
「ぷふっ、急にしおらしくなっちゃって……気持ち悪ぅ」
「なっ! 俺はホントに悪いと思って…」
「はいはい。謝罪は“いよいよ”となってからでいいから」
からかう“てめー”の言葉には前向きな意味が込められていることに、悲嘆に浸っていた“お前”が気付く。
「な、なんかあるのか?」
「ここさ、ずっと雨水が流れ込んでんのにどこにも溜まってないんだよね。穴も奥に続いてたし、もしかしたらどこかに抜けてるかもしれない」
そういえば最初にもそんなことを言っていた。
「だ、だけどこんなに真っ暗なのに……」
「大丈夫。見えないけど分かるから」
暗闇でも人や物や生物の気配が分かる。普通でない生活環境が生んだ物騒な特殊能力だが、割と役に立つことも多いの皮肉だった。
「でもどうなってるか分からねーから、お前はここに残って……」
「嫌だっ!!」
言葉を遮るように勢いよく叫ばれて、“てめー”は驚いてから思い出す。“お前”は暗闇に一人残されるのが怖いことを。
「……分かった。最後まで道連れと行こうや」
そう言って“てめー”は“お前”の手を取って、穴の奥へと歩き出した。
危険かもしれないのに嬉しそうな“お前”の気配とぎゅっと握り返してくる手に、何故か気分の良い“てめー”だった。
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