原作設定(補完)
□その17
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「……万事屋……てめー……」
「俺って昔から猫に好かれる体質なんだよねぇ」
「この間、依頼の探し猫に逃げられてましたよね」
「ジミー、てめっ」
状況を理解し想像した土方が嫌悪感を露わにして銀時を睨みつけると、
「……つまり、なんだ? その液体を浴びるとてめーを好きになっちゃうとかそんな……」
「バレたら仕方ねぇぇ!多串くん、覚悟っ!!」
開き直った銀時が土方に向かって銃を連射し始めた。
中身の正体が分かった以上、のん気に喧嘩しながら避けるわけにはいかないと、山崎を盾にして逃げようとする土方。
「ぎゃぁぁ、ふ、副長ぉぉおお、俺を盾にせんでくださぃぃ!」
「うるせぇぇ!!お前が浴びろっ!!」
「いやですぅぅ!! え、ちょ、うわぁぁああ!!」
迫ってくる銀時に山崎を突き飛ばして土方は逃走するが、背中を見せたら絶好の的になってしまうために背後を気にしながら屯所内を駆け回ることになる。
いつか弾切れするだろうと思いつつも、このまま逃げ回って他の隊士に犠牲者が出ても困るし、冒頭からの理不尽さを我慢できる土方ではなかった。
立ち止まって銀時と対峙するとするりと刀を鞘から抜いた。
「多串く〜ん、液体は刀じゃ防げなくね?」
「やってみねーと分かねーだろーが。来やがれ、腐れ天パー!」
「オッケーイ、我が命に代えても」
ニヤリと笑った銀時が引き金を引くたびに次々飛んでくる液体を、土方が刀の面で受け止めるように弾いていく。
普段不器用なくせに刀を持たせると体の一部のように操れる土方に、銀時は小さく舌打ちした。
チラリと手元を見ると、銃の窓から見える液体の残量が僅かしかない。
ムダ弾を撃たないように策を講じないと、と思ったとき、
「なにやってんですかぃ。真面目に掃除しろよ、土方ぁ」
障子を開けて沖田がひょっこり顔を出し、いつもの憎まれ口を叩いた。
「ばっ…出て来んな、総悟っ!」
「あ?」
「あ〜、狙いがズレたぁぁ」
きょとんとする沖田に向かって、惚けた声を出した銀時が液体を一発撃ち込む。
ワザとだと分かっていても、沖田が憎たらしいクソガキだとしても、土方の手は勝手に動いてしまった。
振り下ろした刀は沖田を守って液体を弾いてくれたが、そのまま障子の枠へと深く突き刺さる。それが銀時の狙いだった。
「もらったぁぁぁああ!」
刀を抜く間を与えず、銀時は最後の一発を土方に向けて引き金を引いた。
防ぐ物は何もないし、これで土方とのラブラブイチャイチャ年越しを確信した銀時だったが、懐にさっと手を入れた土方は大好きなアレを向かってくる液体に向かって投げつけた。
液体を浴びてボトリと地面に落ちる、マヨネーズ。
「ああぁぁぁああ!!!」
「てめぇぇぇええ……いい加減にしろコラァァアア!!」
最後の一発が失敗に終わってがっくり項垂れる銀時に駆け寄ると、土方は怒りの鉄拳を頭上に叩き込むのだった。
夕陽の差し込む屯所の縁側。
大掃除も終わり夜勤警護までの空き時間、煙草の煙とともに深い溜め息をつく土方。
これからが本番だというのに、余計な体力と精神力を使ってしまった。
そこへ追い討ちをかける沖田の楽しそうな声。
「土方さ〜ん、随分面白いことになってたみたいですねぇ」
あの後、時間を無駄にした土方は遅れを取り戻そうと再び走り回ることになり、その間に山崎あたりに話を聞いたらしい。
「旦那、土方さんのことが好きだったなんて随分悪趣味でさぁ」
「……チッ……助けるんじゃなかった……」
「当たってやったら良かったじゃねーですかぃ」
「ふざけんなっ。あれに当たってイチャイチャしたって、あれのせいだと思われるだろうがっ」
からかう沖田にそう叫んで反論した土方だったが、その言葉に含まれた微妙なニュアンスを聞き逃す沖田ではない。
そして沖田が気付いたことに土方も気付いた。
「……お、俺、なんかおかしなこと言ったか?……」
「あれに当たってなくても“旦那が好きなのに”って言ってるように聞こえやした」
「……っ……」
たちまち土方の顔が真っ赤になっていくのを見て、沖田が白けた表情を浮かべたとき、
「……うっ……うっ……」
足元から嗚咽が聞えてきて土方が慌てて縁側の下を覗いた。銀時が膝を抱えて泣いている。
「て、てめぇぇ!な、なな、何してんだぁぁああ!!」
「多串くぅぅんんん。銀さんごっさ嬉しいですぅぅぅ!」
縁の下から這い出してきた銀時が泣きながら土方の足にしがみ付くので、
「バ、バカヤロー……」
満更でもない顔でその頭をゴチゴチと殴る土方。
面白いことになったとからかいに来たのに、面白くないものを見せられて不機嫌になる沖田だった。
おわり
今年最後なのでちょっと頑張ってみようと思ったんですが……
思っていた以上に長くなってギリギリになってしまいました。あーあ。
悶々と考え続けたネタが少しずつ消化できて充実した1年でした。
来年も頑張ります。