原作設定(補完)

□その17
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思い出して、ガッツリ落ち込んでもやってしまったことは取り返しがつかない。

“一度でいいから”なんて思ったのに、“なかったこと”にされるのが嫌で逃げ出した。

こんなことならいっそ告白して玉砕したほうがマシだったんじゃ、と考えていたとき、頭上から声がかけられた。

「多串くん、忘れ物ですよ〜」

「!!」

ベンチに座ったまま振り返ると階段の上に銀時が立っていて、見慣れた刀を片手でぷらぷらさせている。

「こんなん忘れたら切腹なんじゃないの」

「……あ……」

腰に手をやり刀を持ってこなかったことにようやく気が付いた。

会いたくなくて黙ってでてきたのに、これでは銀時が階段を軽い足取りで下りて来るのが見えていても、逃げ出すことができない。

「はい」

「…悪い…」

差し出された刀を受け取り、そのまま行ってくれないかと願ったのは叶わず、銀時は黙ってベンチの隣に座った。

土方は思わずいつもの憎まれ口を叩くが、

「…何座ってんだよ…」

「んー」

銀時もいつものように受け流し、何か言いたいことがあるかのようだった。

“さっきは悪かった。でも酔った勢いなんだから忘れよう”

そんな言葉を聞くぐらいならもう一度逃げてしまおうかと思ったのだが間に合わず、銀時が口を開く。

「あのさ、さっきのことだけど……」

「……」

「謝らねーから」

想像していたことと違う言葉が聞えてきて土方が顔を上げると、拗ねたような顔をする銀時が見えた。

それから顔をしかめたり照れたり苦悩しつつ、信じられないようなことを淡々と言い出す。

「あれは、酔った勢いとかじゃなく最初からそのつもりだったつーか……なんか、大事なこと言わずにヤッちまったけど……朝起きたら2人ともなんか照れちゃうじゃん?気まずいじゃん?そんな初々しい雰囲気の中で、ちゃんと好きだって言うつもりだったんですぅ。それなのにお前起きてこっそり帰っちまうし?……お前は虎に噛まれたようなもんだって忘れてーかもしれないけど、銀さんはこれっきりなんて嫌だからっ」

その言葉を土方は何度も何度も頭の中で反芻した。普段は一瞬で裏の裏まで理解してしまう真選組の頭脳が、今日はまったく働かない。

その間、ずっと無言なのに堪えられなくなったのは銀時のほうだった。

「な、なんか言ってくんね?心臓もたねーんですけど」

「……と、虎に噛まれたら死ぬわ……」

「そこかよっ!」

ツッコミを入れた銀時は、そこで初めて土方が泣きそうに顔をしかめていることに気が付いた。

今日は最初からずっと土方が可愛く見えるしなんだかとってもエロイし、すこぶる酔っていたせいもあって言いたかったことも言えずにムラムラを暴走させてしまった。

それでも土方も少なからず自分を想ってくれてるんじゃないかという気がしていたのに、なにも言わずに逃げられて一人寂しくホテルを出てきた銀時だったので、こんな顔を見れて嬉しくてしかたがない。

今からでも遅くないんだろうかと、銀時は照れ笑いしながら言った。

「もしお前が嫌じゃなかったら、俺たち付き合っちゃったりしちゃったりしませんか?」

「…望むところだコラァ」

「まじでかコノヤロー」

嬉しそうな顔をして銀時は土方を抱き締めた。

今までずっと一人で悩んできたことをあっという間にムダにされて、腹いせに怒鳴りつけたくなるのを土方はぐっと我慢する。

口を開いたら真逆のことを言い出してしまいそうで悔しかったので、何も言わずに抱き締め返してやった。



 おわり



ネタメモの最初のほうから何か書いてやろう、と引っ張り出したのがこの話。
1年以上前からこんな恥ずかしい話を考えていたのでした。
もっといい雰囲気で土方の語りをしてたはずなんですが、思い出せないなぁ(笑)
イチャイチャしてるはずっと変わらずですね。

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