原作設定(補完)

□その17
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#170

作成:2016/01/26




屯所へ向かうパトカーの後部座席で、土方は深い溜め息をついた。

それを見た近藤が小さく笑いながら申し訳なさそうに言う。

「トシ、悪いなー。本当なら非番なのに無駄足踏ませちまって」

「……かまわねーよ、無駄足で済むならなによりだ」

昨夜テロを警戒しての緊急出動に、非番直前の土方も同行したが結局一晩何事もなく終わってしまった。

言ったことは半分は本心だったが、半分は近藤への気遣いだ。待機させられている間中、チラチラと頭を過ぎる白いふわふわ。

三週間ぶりにゆっくり会えるはずだったのに、とガッカリした土方に追い討ちを掛けたのが銀時だった。

「仕事が入った」と連絡したあと、「終わり次第行くから」と言うはずだったのに、

「仕事だし仕方ねーよな。じゃ、また時間できたら声かけてね〜」

とあっさりと返されてしまったのだ。

思い返せば銀時はいつもそうだった。ドタキャンしても怒らない、ごねない、自分から誘ってこない。

始めは“意外と理解力がある”と思ったのだが、だんだん気持ちはモヤモヤとしてくる。

『会いたいとか、会えなくて寂しいとか思ってんのは俺だけなんじゃないのか』

そんなことを考えてしまい、我に返って頭をぶんぶんと横に振った。

「ト、トシ?」

「……なんでもねー」

バカみたいだった。好きだとも付き合おうとも言われていない相手にそんなことを考えるのは。

近藤が心配そうに見ているので、土方は誤魔化すように窓の外を見る。

早朝と呼べる時間から少し過ぎているからか人通りの多い見慣れた景色。近道でかぶき町を通っているらしい。

その人の中に銀時の姿を見つけてふわっと浮ついた気持ちはすぐに崩れた。

見慣れない若くて可愛い女を前にニコニコだらしない顔をしている。

あっという間にその横を通り過ぎてしまったが、銀時は目立つため近藤も気が付いたようだ。

「今の万事屋だったんじゃねーか……って、トシ?」

むすーっと不機嫌そうな土方を見て近藤もそれ以上は何も言わなかった。




土方が副長室に戻ってきたのは日付が変わろうとする頃で、すぐに布団を敷いて潜り込んだ。

不機嫌な土方に「今日は休んでいいぞ?」と近藤は気を使ってくれたが、そんな気分も必要も無かった。

徹夜明けなのに仮眠もとらずにガツガツと仕事をしたのに眠れない。

昨夜から今朝のモヤモヤとイライラをずっと引きずっている自分に苛立つ。

そのとき、副長室に静かな足音で近付いてくる者が居た。

部屋の前で止まり、

「副長〜、寝てますか〜?」

とマヌケな声でマヌケなことを言っているのは山崎だ。

『“起きてるか?”ならともかく“寝てるか?”ってなんだ』

イラッとしながらも返事はしなかったので、襖が少し開き、再度問いかけられる。

「副長〜?」

それも無視し、次に何か言ったら切腹させようと思ったら、

「…大丈夫みたいです」

他の誰かに向かってそう言った。

『誰だ?』と緊張する土方に、間の抜けた聞き覚えのありすぎる声が聞えてくる。

「いつもと同じで10分だけですからね。帰るとき他の奴らに見つからんでくださいよ」

「分かってますぅ」

そして立ち去る足音と中へ入ってくる足音。

『な、なんだ?なんで万事屋がここに……って、“いつも”?“いつも”ってなんだコラァ!!』

動揺する心と裏腹に、土方は身動きせずにじっと息を潜めた。


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