原作設定(補完)

□その17
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#169

作成:2016/01/07




「た〜だ〜い〜ま、っとぉ。銀さんが帰りましたよ〜」

タダ酒をしこたま飲み、ご機嫌で万事屋の玄関を開けた銀時だったが出迎えてくれる者はなかった。

それもそのはず、今日は土方とデートの予定で神楽を新八のところへやり、久し振りに2人でのんびりできると思ったところへドタキャンの電話。

寂しい懐で自棄酒でも飲もうかと思ったとき、黒いもじゃもじゃに遭遇した。

あんなんでも社長である。いつもの調子でそそのかしたりおだてたり、飲み屋を梯子してすべて支払いを押し付けたのだが、帰り際に渡された物があった。

万事屋に帰ってきた銀時は、ソファにどさっと勢いよく座って大きく息を吐く。

飲んでる間は忘れることができても、一人になるとやっぱり思い出してしまう。

「……ちぇっ……土方の仕事虫ぃ。銀さんを放っておくと寂しくて死んじゃうんですよぉ」

両腕でぎゅっと抱き締めても自分の体温しか感じられないのが虚しくなってきたとき、懐にしまっていた物を思い出した。

ゴソゴソと取り出してテーブルの上に置いたのは、両手のひらで包めるぐらいの卵。

「あれぇ?なんかおっきくなってませんかコレェ……気のせいかぁ?」

坂本に貰ったときは普通のにわとりの卵ぐらいだったような気がするが、なにせ酔っ払っていたので記憶が曖昧だった。

「え〜とぉ……なんつってたかな、あのもじゃもじゃ……どっかの星で手に入れた“温めると好きなものが出てくる”卵……だったっけ?」

見た目は普通の白い卵だが、酔っ払いの雑な取り扱いでも割れないところを見ると只者ではなさそうだ。

「“どんなものが出てくるのかモニターになってくれ”って言われてもなぁ……卵から出てくるもんだろぉ? ん〜〜……卵だけに……プリン……ぶはははっ」

一人でウケても笑い声が寂しく部屋に響くだけだった。

卵を足の間に置いて、

「まぁ、アイツのことだし、どうせまた騙されてつまんないもん買わされたんだろうけど」

そう呟きながら手のひらで包んで温めてみた。

「……土方の感触に似てる……」

しばらくはモヤモヤしながら卵のつるっとした肌触りを楽しんでいたが次第に飽きてしまい、手近にあったジャンプを片手で捲りながら読んでいたのだが、酒が入っているせいもあってすぐにうとうとし始めた。

目を覚ましたのは朝方。

結野アナの天気予報を見たあと二度寝するのが銀時の習慣だったが、今日はそれどころじゃない事態が発生するのだった。

目を覚ました銀時はテレビを点けに行こうとして足に違和感を感じる。

視線を落とすと、太ももと手のひらの間にバスケットボールぐらいの巨大な卵が乗っていた。

「……な、ななな……」

昨夜卵を温めていたのは覚えているが、一晩で巨大化したソレに銀時が言葉を失っていると、卵に亀裂が走った。

ぎょっとして息を飲んだとき、ぱかっと割れた卵の中には……裸の子供。

「桃……じゃねぇ、卵太郎ぉ!?」

とっさに浮かんだのは“桃太郎”だったが、この桃太郎は誰かに似ていた。

すやすやと寝ている黒い髪の毛の可愛い顔をした子供。

「……ひ、土方? え、ちょっと……何コレ、なんで卵から土方に似た子供が……」

パニックを起す寸前に、坂本に言われたことを思い出した。“好きなものが出てくる卵”。

「ええぇぇええ……好きなものって、そういう意味でぇ?」

確かに土方は銀時の大好物だし、昨日は寂しくて土方のことを考えていたかもしれないが、にわかには信じがたい事態だった。



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