原作設定(補完)

□その17
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#167

作成:2016/01/01




冷たい風が身体に吹き付け、土方は首を竦めて身を縮ませた。

今年の年越しは屯所で過ごせると油断していたところに、急な要人警護で出動させられたため防寒まで手が回らなかった。

いつもの隊服だけで凍える土方の身体に、除夜の鐘の音が低く鈍く突き刺さるようだった。

なので余計に腹が立つ。

「土方さ〜ん、やっぱり参拝に行くから着いて来いって言ってまさぁ」

そう報告してきた沖田が、防寒フル装備の上にほかほか肉まんまで頬張っている事が。

「……てめー……何、買い食いしてんだコラァ……」

「寒いからでさぁ」

「寒いからって……」

「もうみんな向かってるんで追い付いて来てくだせぇ」

怒られる前に沖田はぴゅーっと人混みの中に紛れて行った。

ここは初詣で賑わう寺の外れ。初詣に行ってみたいという要人の警護に来たのに、人が多くて嫌だと言い出されて待機させられていた。

沖田が報告してきたように、ようやく並んででも参拝する気になったようで、土方は大きく溜め息を付くと沖田を追って人の中に入って行く。

ぎゅーぎゅーの人混みの中を、おそらく要人の側に居るだろう近藤を目指して少しずつ進む。

これだけ熱気があれば少しは暖かくなるかと思いきやそれ以上に冷え込んでいるらしく、土方は不満そうな顔で歩いていた。

『…こんなはずじゃなかったのに…』

本当だったら……こんな急な警護が入らなかったら、土方には行きたいところがあったのに。

それを考えるとよけいに腹が立ってきたとき、背中の一部が暖かくなった。誰かが密着しているような淡い暖かさ。

これだけの人混みだからそれも仕方ないと思ってみたが、それはペタペタと土方の身体のあちこちに移動していく。

『…わざと触ってるのか?……ま、まさか……痴漢!?』

気が付いたときにはソレは二箇所づつ移動していて、どうやら両手で触っているらしかった。

この野郎と思って刀に手をかけてみるが、この人混みでは抜くこともできない。

背後にぴったりくっ付いている人の気配に、振り返って顔を拝み覚え、後で叩き斬ってやろうと思ったとき、視界が真っ暗になった。

どうやら目隠しされたようで、柔らかいものが目も顔も頭もぐるぐると覆っていくのが分かる。

「なっ……誰だ、てめ……」

荒げた声を出そうとした瞬間、耳元で聞き覚えのある声がそっと囁いた。

「あけましておめでとう」

そしてすうっと離れて行く気配。

急いで目を塞いでいる物を下ろして振り返るが、そこには急に振り返られて驚いている見知らぬ男女がいるだけで、声の主の姿はない。

顔を覆っていたのは少しくたびれた赤いマフラー。これも見覚えがある物だ。

立ち止まっていると不審気な目で見られるため、土方は進行方向に向き直って歩き出す。

そうしているうちに、身体が温かくなっていくのが分かった。ペタペタと触られていた部分だ。

手をやると、そこには貼るタイプのカイロがいくつも貼ってあって、寒さなどまったく感じなくなるほどだった。

身体と心が暖まったのとは裏腹に、土方は不機嫌そうに眉を寄せる。

「…俺にも挨拶と礼ぐらい言わせろ、バカ…」

マフラーで口元までぬくぬくにした土方は、仕事が終わったらお礼参りに行ってやろうと思うのだった。



 おわり



あけましておめでとうございます。
新年用に考えた話で、1日になったらすぐ更新してやろうと思っていたのですが、
31日分に時間がかかってしまい少し遅れたね。
今年もこんな感じに頑張っていきたいと思っていますので、
まったりとよろしくお付き合いくださいませ。


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