原作設定(補完)

□その17
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#166

作成:2016/12/31




万事屋の指定席に座った銀時は、腕組みをして目の前の箱と手紙をじっと見つめていた。

先ほど宅急便で届いた物で、差出人を見て露骨に嫌そうな顔をしたものの、中身を見て難しい顔に変わった。

“金時くんへ 良い物を手に入れたので使ってください。お前もハッピーな気分で新年を迎えるぜよ”

不吉な予感しかしない手紙はすぐに丸めてゴミ箱に投げ捨てたが、一緒に入っていた箱の取扱説明書には興味深い内容が書かれていた。

箱の中身はおもちゃの銃。使わないし興味がないものなので、おもちゃといえど手に取ってもしっくりこない。

それに、一緒に入っていた数本のボトルから薄いピンク色の液体を取りセットした。

そしてもう一度“取説”を手に取ってじっくり読む。

「“ピンクの液体を当てられた人はあなたのことを好きになってしまいます。注意:あなたの国の法律に触れるような人には使用しないでください。“」

ごくりと唾を飲み込んだ。

坂本が送ってくる怪しげな品の怪しげな説明を鵜呑みにほどバカではないが、銀時にはまさにタイムリーな悩みがあった。

今年の正月、神楽と新八に無理矢理連れ出されて行った初詣で、100円奮発してお願いしたことがある。

“今年こそ多串くんとイチャイチャできる仲になりますように”

甘味を我慢して100円も出したのに、あと数時間で今年も終わろうとしているが一向に願いは叶う気配がない。

手抜きな神様に頼るよりも、怪しげな品とはいえ自力で願いを叶えるべきではないだろうか。

銀時は銃を掴むと懐にしまい家を出た。




大晦日の真選組屯所はバタバタとしていた。

今夜から休みの者は屯所内の大掃除、今夜仕事の者は警護の準備に追われている。

土方は当然仕事組だったが、掃除組への指示や監視をして歩き回っている中、屯所の入り口に不審な姿を見つけて眉を寄せた。

銀髪天パーをふわふわ揺らしながらのん気な顔つきと足取りで入ってくる不法侵入者。

「てめー、何勝手に入って来てんだコラァ!」

土方は怒っているのに、銀時はそれを見てなぜか嬉しそうに笑いながら近付いてくる。

「なんかバタバタしてんなぁ」

「当たり前だろーが、大晦日だぞ。こっちは忙しくててめーの相手をしてる暇は……」

「ああ、大丈夫大丈夫、すぐ済むから」

そう言いながら表情を変えず懐に手を差し込んだ銀時は、取り出した銃を土方へ向け引き金を引いた。

真剣どころか木刀しか持ち歩いていない銀時が、まさか銃を持っているなどと考えもしなかった土方も、周りをバタバタ駆け回っていた隊士たちも即座に反応できなかった。

それでもさすが真選組の副長、銃から発射されたモノは間一髪で土方の顔を横を通り過ぎて行く。

「チッ」

舌打ちしてもう一度引き金に手をかけた銀時だったが、その隙を与えるほど真選組はマヌケではなかった。

あっという間に数名の隊士が土方の前に立ちはだかり、左右からも刀の切っ先を銀時に向けた隊士たちが立っている。

さすがの殺気に銀時も観念しへらっと笑って銃を下ろした。

「…てめー、どういうつもりだ」

「オーバーだなぁ、多串くんは。おもちゃだし、ホラ」

銀時は銃を自分の手のひらに向けて引き金を引き、さきほど放った中身がただの液体であることを証明してみせた。

よく見ると確かにおもちゃクサイ銃だというのが分かる。

「掃除の邪魔だってお家から追い出されちゃったからさー、多串くんと遊ぼうかと思って」

「帰れ、ダメ人間」

辛辣な言葉を放ち、土方は隊士たちに仕事に戻るように指示してから、再度銀時を睨みつける。

「てめーと遊んでる暇はねー。とっとと帰れっ」

「え〜、ちょっとぐらいいいじゃ〜ん、銀さん超暇なんだよね〜」

「知るかっ。ガキ共に遊んで貰えっ」

「ちょっとだけ〜、300円あげるから〜」

「誰が300円ぐらいで……」

土方が言い終わらないうちに銀時は銃を向けてきて、今度は来ると分かっているので土方は余裕でかわす。

「避けるなよ」

「避けるわぁあ!つーか、何してんだてめーはっ!」

ぶーぶー文句を言い合いながら数回それを繰り返していたとき、庭のほうから歩いてきた山崎が声をかけてきた。

「副長、庭に迷子の猫が居たんですけど……」

土方が避けたところに猫を抱えた山崎がひょっこりと姿を現し、おもちゃの銃から発射された液体が、

「ふにゃっ!」

猫にかかった。

「あっ、何するんですかっ、旦那っ!」

「お前こそ何してくれてんだぁぁあああ!!」

そう叫んだ銀時のただならぬ動揺っぷりを不審に思う前に、その原因は明らかになった。

液体を浴びた猫が山崎の腕を後ろ足で蹴って逃げ出すと、銀時に飛びつきゴロゴロと喉を鳴らして甘え出したのだ。

「うにゃにゃにゃにゃぁぁん」

突然変貌した猫、汗をかいて目を合わせようとしない銀時、不審な液体。



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