原作設定(補完)
□その16
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#157
作成:2015/12/01
「…寒いな…」
そう呟いて土方がはぁと息を吐くと、白く色が付いて空中に広がる。
それを見た銀時が頷きながらしみじみと言った。
「朝晩は冷えるよなー、もう12月だし。早いよな、一年って」
「……そうじゃなくて……」
「だからすぐ春になるし、また一緒に花見……」
「じゃねーだろうがぁぁあああ!家ん中だぞ、んでこんなに寒いんだぁぁ!!!」
わざとらしく話を反らす銀時に、土方が我慢できずにキレる。
その怒鳴った口からもふわんと白い息が吐き出されるが、ここは万事屋の家の中だった。
今夜はすごく冷え込むと天気予報で言っていたから、外で会うより万事屋にしようと言われて来たのに、外と大差ない寒さだ。
「いつもは下の店がやってるから床暖房になって温かいんだけどさー、社員旅行とかで休みなんだもんよ」
口を尖らせて文句を言う銀時に、土方は“それは床暖房じゃねーだろ”と思いながら眉間にシワを寄せて言う。
「……他に暖房ねーのかよ」
「ストーブぐらいありますぅ」
「点けろよ」
「…灯油が…」
「買えよ」
「…金が…」
「帰る」
「ちょっ、待ってぇぇええ!こんな寒いところに俺を一人置いてく気ですかコノヤロォォオオオ!!」
本気で帰ろうとする土方の腰に縋り付いて叫ぶ銀時に、土方は深い溜め息をつく。
確かにこんなところに置いていかれたら余計に寂しい気持ちになるかもしれない。
「じゃあ、どうすんだよ」
「だから〜、ここは手っ取り早く温まるのが良くね?」
銀時がにま〜っと笑って提案した“温まる方法”は簡単に想像がつくし、始めからそのつもりでもあったから、土方はじろっと睨みながらもそれに乗っかってやった。
寒い部屋の薄い布団でも、激しい運動をすれば汗をかくぐらい温かくなれるものだ。
満足した銀時が土方を抱き締めて眠ってしまうと、土方は布団を抜け出しシャワーを浴びる。
外泊なんてして目敏い沖田にネチネチ言われるのが嫌なので、そのまま屯所に帰るのがいつものパターンだった。
が、和室に戻って着替えようとしたとき、薄い布団で小さく丸まり寝ている銀時を見つめ、
“……朝方はもっと冷えるよな……だからって凍え死ぬわけじゃねーけど……”
なんだかだんだん可哀想になってきてしまい、むーっと不機嫌な顔をしながら、着替えるのを止めてもう一度布団に入り込んだ。
暖かいモノが寄り添っていることに気付いたのか、寝ながら銀時は土方の身体を抱き締める。
“……あったけー……”
銀時の腕に包まれて、そう思いながら土方も目を閉じた。
翌朝。
「おはよーございまーす」
玄関からの声に土方はパチッと目を開ける。時計を見ると9時過ぎていて、今日は非番とはいえぐっすり寝てしまっていた自分に青ざめた。
予想通り朝方はすごく冷え込んでしまい、ぬくぬくの人間カイロに“もうちょっとだけ”と思ったら本気で寝てしまったらしい。
そんな自己嫌悪と動揺は、新八のセリフで怒りへと変わった。
「うっわっ、寒っ!もう、ストーブぐらい点けてくださいよっ。昨日ちゃんと灯油買って入れておいてあげたでしょうっ」
襖の向こうでブチブチ文句を言っている新八。
即座に状況を理解した土方が自分を抱き締めたままの銀時を睨みつけると、瞼をぴくぴくさせながら寝たフリをしていたのでほっぺたをぎゅーーーーっと捻りあげてやった。
「いたたたたっ、痛いからっ、土方くんっ」
「うるせぇっ、めんどうな目に合わせやがってコノヤローっ!」
“いつも帰ってしまう土方を引き止めるため”と思えば可愛い嘘だったとも言えるが、これから新八の前に出て行くのと、屯所に帰って沖田に嫌味を言われるのを想像すると、八つ当たりせずにはいられない土方だった。
おわり
去年の冬に、寒いなぁと思いながら布団に入ってるときに考えた話でした。
あれからもう1年経つのか……本当に早い(笑)