原作設定(補完)

□その16
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#156

作成:2015/11/29




真選組屯所、局長室。

近藤と土方は向かい合わせで座り、長い時間黙ったままだった。
畳をじっと見つめた土方に、かける近藤の声は迷いながらも必死さを含んでいた。

「……難しい任務だと思うが、お前にしか頼めない……」

近藤がそこまで言う理由も必要性も理解していたが、土方は即答するの躊躇う。

承諾すれば、得る物も失う物もたくさんあるからだ。

「……トシ……」

「……分かった……」

それでも土方は頷いた。

土方ならそうするだろう…そうせざるを得ないことを近藤は知っていたから、申し訳なさそうに小さく笑う。

「…すまねーな。明日、正式に通達するから…今日はこのまま休んでくれ」

「…ああ…」

局長室を出て自分の部屋へ戻ると、煙草に伸ばしかけた手を止めて携帯を取り出す。

発信履歴の一つをじっと見つめ、通話ボタンを押した。




「は〜い、万事屋銀ちゃ……おう」

万事屋に鳴り響いた電話に“依頼か?”と期待した新八は、電話に出た銀時の顔を見てすぐにそうじゃないなと察した。

長い付き合いであるが銀時にああいう顔をさせられる相手を一人しか知らない。

ちょうど帰るところだったしそのまま行こうとした新八を、

「あ?今日? ちょ……新八っ」

銀時は慌てて呼び止め、それからソファに座っている神楽にへらっと笑って話かける。

「神楽ちゃ〜ん、今日、新八んとこに泊まりに行かなぁい?」

「……酢昆布5個ネ」

素早く理解してちゃっかり見返りも要求するあたりも、その要求が安いのも、神楽らしい。

銀時が嬉しそうに電話に出ている間に、溜め息をつきつつ新八と神楽は部屋を出て行った。




それからほどなくして現われた土方は、両手に重そうなビニール袋を持っていた。

「土産」

差し出された袋を受け取りながら覗くと、中には大量の缶ビールとつまみ。

「うわ、何?特売?…なわけねーか、コンビニだもんな。ん?これ…」

「…必要なんだろ…」

小袋に入れられた小さい赤い箱(たぶん5個)は神楽の大好きな酢昆布だ。電話で銀八と神楽との会話が聞えていたのだろう。

相変わらずの“フォロ方”っぷりに銀時は嬉しそうに笑った。

「サンキュ」

「…ん…」

銀時が笑えば土方も笑う。だけど今日はどことなく元気がなかった。

それに気付いたのは土方が次から次へとビールを空けていくのを見てからだ。

「……もう一本」

「…ピッチ早くね?」

プルトップを開けて次の缶を渡しながら銀時がそう聞いても、土方は難しい顔をしている。

お互いあまり酒は強くないのに、あれだけ飲んでいるのに土方の顔色は変わっていない。

受け取ったビールをごくごく飲んでから呟くように答えた。

「…飲みてー気分なんだよ…」

「なんかあった?」

本当に何かあったのなら土方は言わないと分かっていて問いかけたのに、土方はビールを飲むのを止めて銀時を見た。

黙ってじっと見つめ続ける土方に、銀時も何も言えなくなる。その“攻撃”は卑怯だ。

追い討ちをかけるように、缶をテーブルに置くと土方は両腕を伸ばして銀時の首に絡ませ、頬に擦り寄る。

どこかおかしいと分かっているのに銀時は抑え切れずに土方を抱き締めた。




「…土方?…」

名前を呼ばれて、土方はぼんやりしていたことに気付いて銀時を見る。

布団に横たわって愛撫を受けながら意識はそこに無かった土方に、銀時が不安そうな表情を浮かべていた。

「……悪い……」

「銀さんのゴットハンドよりも気になることでもあんの?仕事?」

土方を悩ませるものなんてそんなトコだ。鬼の副長は仕事の鬼でもあるのだから。

銀時の言葉に、土方は一度外した視線を戻し見つめながら言った。

「俺は……真選組が大事だ…」

「分かってる」

「組のためにできることは…なんでも…できるだけのことはしてーと思ってる」

「…うん…」

分かってると言う銀時に、それが少し寂しいと思うのは自分勝手な感情だ。

そういう大事なことをすべて飲み込んできたけれど、今日だけは言わなくてはならない。

「…一度に二つのことができるほど器用でもねーから……戦ってるときは組のことだけで精一杯で……てめーを思い出すことはねー」

「……」

「…だけど…」

そっと銀時の頬に触れた土方の指先はなぜか冷たくて、身体は温かいのに背筋がすうっと寒くなった。

そして唇が紡いだのは、縁起でもない愛の言葉。

「……だけど……事切れる瞬間には…てめーに会いたくなるんだろうな……」

「…ひじ…」

名前を呼ぼうとした銀時の口はすぐに塞がれた。

何度も繰り返される土方からの口づけに、もう何も言う気はないんだろうと察した銀時も聞くのを止めた。

「……はっ……ん……」

息が乱れ身体は熱くなるのに背筋が寒いままなのを、銀時は気付かないフリをして土方を抱き締める。



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