原作設定(補完)

□その15
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袋から出てきたのは、土方の大好きなマヨリンマヨネーズが創立100年を記念して製作された体長1mの巨大ぬいぐるみだった。

貯金をはたいて、1年分以上の在庫を積み上げてマヨを買いまくって応募したが、当選しなかった10体限定のレア物だ。

土方はそれを見た瞬間に驚いた後ぱーっと顔を輝かせたが、我に返って思いきり動揺しながらもなおシラを切る。

「そ、そそそ、それがどうかしたんですか、なんですか、それ、き、気持ち悪いぬいぐるみ」

「……頑張るね。そんじゃ……」

銀時は木刀を短く逆手に持つと、先をぬいぐるみの腹に押し当て、

「マヨリンのどてっぱらに風穴開けちゃおうかな〜」

そう言われて土方の我慢の壁は崩壊した。

「やめろぉぉぉおおおお!!!」



腹を抱えて声を出さずに笑っている銀時の隣で、銀時から取り上げたマヨリンぬいぐるみを抱き締めてふて腐れている土方。

こんな姿まで見られてからかわれて、銀時の前ではうまくいかないことばかりで悔しくなる。

そんな土方を見て銀時は『可愛いっ』と微笑み、

「で?ホントに何してんの?」

そう聞いてやる。土方はそっぽを向いたまま答えた。

「……潜入捜査」

「だよね。本当に職探しだったら銀さん怒るところだしね」

「……なんでてめーが怒るんだよ」

「知らね」

「……んだ、そりゃ……」

一人だけ分かったような顔をしている銀時に、土方はむっとながら、抱き締めたマヨリンのことを聞いてみた。

「てめーこそ……これ、どうしたんだ?」

「…知り合いんとこに遊びにきたらよ、なんか置いてあって?いらねーっていうから貰った」

「……」

「ぷふっ。誤解すんなよ、新八と神楽も一緒だから」

「な……てめーガキ共をなんて場所に……」

「だから、誤解だっての。吉原に居る母ちゃんに会いたいってガキを拾っちまって、探してやったらちょっと知り合いが増えただけですぅ」

大事なことは何も言わなかったが、さっき“紹介する”と言った日輪太夫と係わっているのならだいたいの予想はつく。

面倒ごとに首をつっこんで、巻き込まれて、ケガをして、守って。そんな銀時だから周りの者をすべて惹き付けていくのだ。

そんなところに土方がヤキモキしてるのも知らず、銀時は説明を続ける。

「これはもう多串くんにすぐ届けなきゃと先に帰ろうとしたら、コソコソしてる女に股間センサーが反応しちゃってさ〜」

「……そのセンサーはエロイことにしか反応しねーだろーが」

「うん。多串くんがエロイからねー」

そう言って土方の頬に触れようとした銀時の手を払い除け、不機嫌な顔でにらみつけた。

「触るな。俺に触ったら殺すぞ」

怒っているが、顔に“やっぱり女のほうがいいのか?”と書いてあって、怒られているのに銀時は笑った。

銀時がいくら気持ちを伝えてもいつもしれっとしている土方が、やきもちを妬いて不機嫌になるのが嬉しい。こんなやり方をしているから土方は信じてくれないんだと分かっていても、銀時は満足だった。

「冗談はさておき、調べモノなら日輪に頼んでやるよ」

そう言って日輪のところへ向かうために歩き出す銀時に、土方は少し躊躇ってから後に着いて行く。

とぼとぼ歩いている土方を見て銀時が手を差し出した。

「あ〜……触んなって言ったけど手ぇぐらい繋がね?そのナリなら恥ずかしくねーだろ」

「……別な意味で恥ずかしいわ…」

「銀さんのお願いですっ」

マヨリンを抱き締めている手を片方掴んでぎゅっと握ると、銀時は楽しそうにまた歩き出した。

こんなことで喜ぶ単純な男の横顔を見ながら、こんな姿になったのも悪くなかったかもと土方が思っていると、

「…仕事終わったら家に来いよな」

なんて言われて眉間にシワが寄る。

“コノヤロー、やっぱり……”と睨みつけてやったら、

「……このままの姿で、とか言うんじゃねーだろーな」

「元に戻ってからに決まってんだろうが」

「…なら、よし…」

当然とばかりに言い切られて、土方はちょっとだけ素直になって頷いてみた。



そんな感じで土方の吉原潜入は失敗に終わったのだが、自警団・百華に情報を貰いに行ったところ、

「ああ、そいつらなら……もう捕まえてある」

「……え……」

縄でぐるぐるにされた逃走中の攘夷志士たちを受け取り、目的は果たされたものの、わざわざ女になった自分が虚しい土方だった。


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