原作設定(補完)
□その15
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「…どうすりゃいいんだよ…」
吉原の建物の影にしゃがみこみ、大通りを覗くこそこそした人影。
沖田が用意した荷物の中には吉原へ入るための紹介状的なものと、分厚いガラスの伊達メガネと、そして探している女が居そうな怪しげな店名の一覧が入っていた。
眼鏡をかけて一覧を握り締めながら土方はぷるぷると身体を震わせる。この姿でこの店に行ったら雑用係として雇ってくれるだろうか。お店に出されたりしたら貞操の危機だ。
「ちくしょう、総悟の奴っ。……こんなことならマヨをカロリーハーフにするんじゃなかった」
あの時いらぬ恥をかいてしまったため、万が一同じことが起きたときに目に物見せてやろうと密かに努力したのが裏目に出てしまった。
沖田たちはもちろんだったが、銀時に鼻で笑われ言いたい放題言われたのが土方を一念発起させたのだ。
『この姿ならアイツだってメロメロにさせられたのに……』
あんな姿であんな喧嘩をしたことがよほど悔しかったのか、土方はしょうもないことを考えながら落ち込んでいた。
そんなことより今は潜入して逃げられた攘夷志士を捕まえるのが先決だと気合を入れなおそうとしたとき、
「あんた、こんなとこでなにしてんだ?」
背後からそう声をかけられて土方は身体を硬直させる。
すぐ後ろに立たれるまで気配に気付かなかったことと、その声に聞き覚えがあったからだ。
ゆっくりと振り向くと、そこには銀髪天パーでやる気のない顔をした男が何やら大きな袋を肩に背負って立っていた。
『万事屋っ』
バレたのかと思い全身にドッと汗をかいたが、対して銀時は興味なさそうに土方を見下ろし、
「ここにはさー、百華っていう怖い自警団がいるからコソコソしてると余計に怪しまれるぞ」
そう言ってしゃがんだままうろたえる土方に手を差し出して立たせてくれた。
『…気付いてねーのか?……そうだよな、この間と違いすぎるもんな……』
そのほうが良かったはずなのに、酷くがっかりしている自分に気付いて更に落ち込んでみたり。
土方が何も言わないので銀時は更に問いかけてきた。
「で?なに?迷子かなんか?」
「あ……その……仕事を探しにきた……んです」
「…ふ〜ん…」
ドキドキしながら返事をした土方を、上から下まで目を通し、
「あんたならどこの店に行っても採用してくれるよ。俺のオススメはねー…」
「いやっ、あのっ……そ、掃除とか雑用とか……で、いい……です」
「でも、吉原だし……そっちのほうが金になるぞ」
「え、えっと……その……は、はは、恥ずかしい……ので……」
言っている自分が一番恥ずかしいと思っているが、何故か乗り気で店を紹介してくれようとする銀時をなんとかかわさなければならない。
モジモジと話す純情な乙女風な土方に、残念そうな顔をして銀時は言った。
「……ふ〜ん……あー、じゃあ、日輪……吉原の偉い奴を知ってるから、繋ぎとってやるよ」
「…あ、ありがとう…ございます」
礼を言いながら土方の心はもやもやっとしていく。
銀時がこんな場所(吉原)に居ること、あたりの店に詳しそうなこと、現在の吉原を統括している日輪太夫と懇意にしていそうなこと。
いろいろな疑問疑惑が湧いてきた。
『“俺だけだ”とか言いながら、裏でなにやってるか知れたもんじゃねーな』
はっきりとお互いの気持ちを伝え合ったわけじゃない。銀時の軽い口を信じたわけでもない。
だけどこんなに心が乱されるのは、信じていたかったからじゃないかと、初めて気付いた。
銀時から目を反らし黙り込む土方に、
「その変わりと言っちゃなんだけど……」
そう言って銀時は、土方のあごに指をかけ自分のほうへ向かせると、もう片方の手で眼鏡を外す。
じっと見つめられたまま近づいてくる顔に、土方は身体を強張らせたままぎゅっと目を閉じた。
『キスする気か!?始めて会った女相手に、このスケコマシヤローォォオオ!!』
本当にしたら渾身の力で殴ってやろうと土方は拳を強く握り締めたが、銀時の唇はコースを外れ耳元に囁いた。
「ホントは何やってんのか聞かせてくんない?多串くん」
名前を呼ばれた途端に土方は目を開け二歩後ずさり、にやにやと笑っている銀時に、全身がかーっと熱くなる。
気付いててからかわれたのだと知って真っ赤になるが、それでも素直に認める土方ではない。
「な、ななな、なんのことですかっ!誰ですかそれっ!」
「思いっきり反応しといてそれは無理じゃね?」
「はは、反応なんかしてませんよっ!!」
「いやいや、無理だから。銀さんの股間センサーまでは誤魔化せないから。どうしちゃったの、ソレ、かわいくなって」
「知らねーって言ってんだ………ですよっ!」
全然引こうとしない土方に、銀時は口を尖らせると、肩に背負っていた袋を手に取り中身を取り出した。
「あ、そう。じゃあ、コレがどうなっても関係ねーわけだな」
「!!!!」
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