原作設定(補完)

□その15
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銀時は部屋に鳴り響く電話のコール音で目を覚ました。

部屋は真っ暗で、窓からうっすら差し込む外の明かりを頼りにソファから机の上の電話まで辿り着く。

「…万事屋銀ちゃ…」

『俺だ』

受話器の向こうから聞えてきた土方の声に胸がちくりと痛んだ。

『時間できたけど出てこれるか?』

急な仕事で会う約束をキャンセルしがちな土方は、こうして時間が出来たときにその穴埋めをしてくれる。

だけどいつもなら嬉しいその声が、今日はツライ。

別れ話なら外で聞くのはやだな……。

部屋が暗くて時計が見えないが当然夜だろうし、電気も点いてないのは神楽が居ないから。そういえば、ソファに突っ伏したまま動かない銀時に何か言っていたような気がする。

「……神楽居ねーからうちでいい……」

『分かった。適当に何か買っていく』

そう言って電話を切った土方の声がいつもと違うような気がした。



チャイムと同時に扉を開けて中へ入ってくる音に、銀時は大きく息を吸い込んでソファから立ち上がる。

隊服のまま煙草を咥えた土方が銀時の顔を見て小さく笑うから、“可愛いぞコノヤロー”と抱きつきたくなるが、それをグッと我慢した。

「? どうした?元気ねーな」

銀時が我慢したことを不調と思ったらしい土方にそう聞かれ、

「……腹、減ってるだけだ」

「ふっ。食いモン多く買ってきて正解だったな」

誤魔化す銀時にコンビニ袋が差し出された。大量のビールとつまみ、それにデザート類が入っている。

普段なら恥ずかしがって買ってこねーのに……俺に気ぃ使ってんのか……。

それをテーブルに置くと、土方は隊服を脱いでスカーフを緩めながらソファにどさっと腰を下ろす。

「あ〜〜、疲れた」

ぐったりしながらため息をつく土方に、銀時は不安を隠しながら話しかけた。

「…仕事?真っ直ぐ来たのか?」

「ん。急な子守りを頼まれてよ。警察庁のお偉いさんの娘だかしらねーけど、真選組の仕事じゃねーっつーの」

ブツブツ文句を言いながらビールを取り出し飲みだす土方に、銀時は小さく眉を寄せる。

正直に言いたくねーのかもしんねーけど、そんな言い方で見合いだったことを誤魔化す必要なんかねーのに。

「……んな言い方、失礼だろうが」

「そりゃそうだけどさ。ガキの相手なんてできねーっての」

このまま誤魔化されて知らないふりで一緒にいることもできないと思った銀時が、口にしようとすると痛む胸を抑えて言葉にする。

「結婚……すんだろ」

「……誰が……」

土方はきょとんとした顔で飲みかけたビールの手を止めた。

だからもう誤魔化さなくていいっての。余計につれーだろーが。

「お前以外の誰がいんだよ」

「……俺? てめー、さっきからなんの話を……」

「今日、見合いだったんだろ」

「あ?」

ようやく銀時が何を言っているのか理解した土方は、ビールの缶をテーブルの上に乱暴に置くと不機嫌そうな顔で言い返してきた。

「見合いぃ?んなわけねーだろーが。相手は10歳のガキだぞ」

早朝から見た目の整った隊士たちを連れて、ワガママお嬢様の娯楽にあちこち付き合わされようやく解放されたのに、疲れ切った心身を癒そうと会いに来た銀時にまでつまらない誤解をされたのでは苛立つのも無理はない。

始めは冗談のつもりかと思ったが、銀時が本当に驚いているので、本気で言っていたんだと思うと余計腹が立った。


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