原作設定(補完)
□その15
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数日後。
出動した現場で解散したため、土方は「ちょっとプラプラして帰る」と言って歩き出した。
現場から屯所まで帰るには近道としてかぶき町を通るのが早いし、そのついでに白いもふもふを見つけられたら……と考えて、考えた自分に赤面する。
そんな恥ずかしい土方の恋心も、パチンコ屋のガラスの向こうにお目当てを発見したことで急速冷凍。
「……」
“あいつは…”と呆れてその場を通り過ぎてしまった。
真面目で堅い土方としては、パチンコなんて儲ることのほうが少ないギャンブルに賭ける気持ちが理解できない。
せっかくわくわく気分が台無しになって屯所へ戻ろうとしたとき、大通りの片隅に立っている新八と神楽を見つけた。
「何やってんだ、お前ら」
「あ、土方さん、こんにちは」
「銀ちゃん待ってるネ」
「あ?」
「銀さんの仕事が終わったら、依頼料でご飯に行こうって約束してたんです」
それを聞いて土方は内心激怒していた。
『あのヤローォォオオ!!』
あんな男でも慕って空腹を我慢しながら待っている子供たちがいるのに、おそらく“ちょっと早く着いちゃったから依頼料を倍にしてアイツらに良いモンでも食べさせてやろう”なんて間違った善意を考えたに違いない。
パチンコ屋へ引き返えしてぶん殴ってやろうかと思ったが、二人を見てそれは止めた。
見回すとファミレスがあったので、
「じゃあ俺に付き合え。あそこならここが見えるから」
そう言ってやると二人は素直に着いて来たので、メニューを渡しながら言ってやる。
「好きなだけ頼め」
「まじでか!キャホォォオオウ!」
「えっ、あのっ、でもっ、神楽ちゃんに好きだけなんて言ったらすごい食べるんですけどっ」
神楽は素直に喜んだがそれが余計に怖い新八が遠慮しようとするので、土方は懐から貰ったマヨライターを取り出し煙草に火を点けてから、
「これの礼だ」
そう言って笑った。
しかし、割と土方に近いぐらい真面目な新八としては、具体的な値段の差を考えてしまうわけで。
「…でも…それそんなに高いものじゃないし…」
躊躇う新八に、ああいう雇い主の下で働いていて苦労しているんだな、と苦笑する。
「遠慮すんな」
銀時と土方が公認になってからよく顔を合わせるようになったが、こんな風に嬉しそうに笑う土方を始めて見た。
誕生日の翌日に、「土方がありがとうって。すげー嬉しそうだった」と不満そうな銀時に聞かされていたが、ウケ狙いの安物で大人の土方にそこまで喜んで貰えるモノだとは思ってなかったのだ。
だからちゃんと持ち歩いて使ってくれているようで、『本当に喜んでくれたんだ』と新八も嬉しくなる。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「おう」
始めから遠慮ない神楽と、ここは遠慮しないほうが土方は嬉しいかもと思った新八、そんな二人を微笑ましく見つめる土方。
一目見て家族連れとは思ってもらえないだろうが、近藤を含む隊士達と一緒に居るときとは違うほのぼのした気持ちになる。
そして、その三人を通りの向こうから見つめてショックを受けている銀時。
パチンコ屋に居た理由は土方の予想通りで、その後の結果も当然のように“すっからかんにしてしまった銀時が二人に怒られると落ち込む”ことになったわけで、更に和気藹々と三人で食事をしているのを見せつけられてしまった。
『“寂しいお父さん”再び!?』
精神的にボロボロでお腹も空いてるが、依頼料を使い込んでしまった後ろめたさが銀時を足止めする。
通りすがりの人が思わず見つめてしまうほど悲壮感いっぱいな風体でたたずむ銀時に、土方も気が付いた。
小さくため息を吐いて、メニューを手に取りながらウェイトレスを呼ぶためのボタンを押す。
「お前らは追加ねーのか?デザートとか」
ぱあっと顔を輝かせる二人がいろいろと注文したあと、土方もメニューの中からいくつかを指差した。
そして伝票を持って立ち上がる。
「俺はそろそろ屯所戻るわ。ゆっくり食ってけよ」
「はい。ご馳走様です」
「ご馳走様アル!」
新八はもちろん、さすがの神楽もご機嫌で礼を言ってきたので、土方は笑ってテーブルを離れると会計を済ませて店を出て行った。
それを見送っていた新八は、ようやく外に枯れ木のようになった銀時が立っているのを見つける。
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