原作設定(補完)
□その15
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#150
作成:2015/11/21
万事屋の時計の針はお昼間近。物音のしないその部屋に、騒がしい足音と声が戻ってきた。
「銀ちゃーん、ただいまヨ〜。お土産買ってきたネ〜」
「神楽ちゃん、そんなに振り回したらこぼれるよっ」
「食べれば同じネ、メガネのくせにそんなこと気にするなヨ」
「メガネ関係ないから。あれ?見慣れない草履……誰かいるのかな?銀さ〜ん?」
「きっとまだ寝てるネ」
「じゃあ、僕起してくるから、神楽ちゃんはお湯を沸かしてくれる?」
「まかせるアル」
「銀さ〜ん、起きてくださ〜………」
新八が和室の襖を開けると、部屋の真ん中に敷かれた布団ですやすやと寝ている銀時が居る。
それだけならいつもの光景だったのだが、とても一人分とは思えない膨らみと、顔は見えないが銀時に寄り添っている黒い髪の頭が見えて新八の動きが止まった。
「……ん…………!!! ぱ、ぱぱぱ、ぱっつぁんっ!」
自分を見下ろしている新八に動揺しまくった銀時は、隣でもぞもぞと動き出したモノに慌てて布団の上から押さえつける。
それが苦しくてよけいに動くから、さらに銀時が強く押さえつけ、そうなると当然、
「ぶっはあぁぁ!!!苦しいだろうがっ!てめー殺す気かっ!!?」
となるわけで、押さえる手を押し退ける勢いで身体を起し土方はそう叫んだ。
見下ろすと銀時が“あちゃ〜〜”という顔をしていて、何かツッコんでやろうかと思ったとき、
「土方さん?」
名前を呼ばれて土方は振り返り、内緒にしていた二人の関係を子供たちに見られた言い訳を、自慢の頭を使って考えたが浮ばなかった。
上半身裸の銀時と、銀時の着物を着ている自分。とても言い逃れできるような格好ではない。
子供の前でうろたえる大人二人に冷静になったのは新八のほうで、
「……とりあえず起きてきてください……」
そう言うと襖をそっと閉めた。
「ああ、良い匂いだなぁ!メシ買ってきてくれたの?銀さん超腹減っちゃったよ〜、あははは……はは……」
無理に明るく振舞う銀時だったが、向かいのソファに並んで座り自分たちをじっと見つめている二人に、乾いた笑いに変わっていく。
どう見てもこのまま誤魔化されてくれなさそうで、土方からのフォローもない。
「つまり……二人は付き合ってるってことなんですね……」
ズバリと結論を述べる新八に、「んなわけないじゃん、何言っちゃってんのおまえっ!」と言い出しそうな銀時が、
「……そう、です……」
照れくさそうにそう答えたのは意外だった。土方もそう思っていたのか、銀時をチラリと見て小さく笑う。
その様子をしっかり見てしまった二人は、なんとも言えない気持ちになった。
「……銀ちゃん……キモイアル」
おっさん同士のウブい姿に眉間にシワを寄せる神楽と、
「……まあ……銀さんが土方さんを好きなのは知ってたからいいんですけどね」
なんて言い出す新八。
「知ってたアルか、新八っ」
「うん。だって銀さん、自分から誰かにカラミに行くなんてほとんどしないのに土方さんにだけは行くし、それがなんだかすごい嬉しそうだし…」
「な、ななな、何言っちゃってんのおまえっ!そんなことないからねっ、酔った勢いでヤッ……痛いっ!!……な、流れでなんとなくそうなっただけで?そんな中二くさいわけないしぃ」
話の途中で土方に足を思い切り踏みつけられたりしつつ、銀時は今度は必死に言い訳をしていた。
どうやらずっと好きだったことを土方には言ってなかったようで、真っ赤になっている銀時は十分中二くさかった。
「そんな面白いこと、なんで言わなかったネ!」
「あー…神楽ちゃんには言いづらい、というか、神楽ちゃん…隠しておけないよね」
蚊帳の外だったことを悔しがる神楽に、新八はもっともなことを言う。確かに、土方の顔を見るたびに“ぶふふふ”と笑いそうである。
「失礼アル!そんなデリバリーのない女じゃないネ!」
「デリカシーな」
不機嫌になる神楽だったがそれは長くは続かなかった。神楽のお腹がぐぅぅうううと鳴って抗議を始めたからだ。
ふて腐れた顔のまま神楽はテーブルの横に置いたままの大きな袋を取り上げ、中から牛丼の容器を取り出すと銀時の前に1つ、新八の前に1つ、置いた。
「そういやメシ買う金あったのか?」
「姉さんが買ってくれたんです」
珍しいこともあったもんだと思ったが、たしか今日は牛丼半額サービスをやっていたはずで、半額で恩を売るちゃんかりした女だと思い直す。
それでも感謝はしなくちゃならない。なにせ、神楽の前には牛丼が8個、9個…と次々積まれているのだから。
そんな家族団らんを醸し出す雰囲気に居づらくなった土方は、
「万事屋、俺はそろそろ帰…」
そう言って立ち上がろうとしたとき、目の前に牛丼が1つ置かれる。神楽は最後の1個を土方の分に決めたようだ。
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