原作設定(補完)

□その15
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#145

作成:2015/11/11




「吉原?」

副長室で書類に目を通していた土方は、山崎からの報告に眉間にシワを寄せた。

「はい。先日の一斉検挙で取り逃がした幹部二名が馴染みにしていた女のところに身を隠しているという情報がありまして、それが吉原にある店らしいんです」

「……吉原…か」

幕府に黙殺される超法規的空間と称されるように、警察の名を掲げて乗り込むことができない場所だ。それにあそこには自警団・百華が居て、うかつに潜入捜査もできない。

「……様子を見ますか?」

「……いや。奴らにまた逃げられるわけにはいかねぇ。早急に手を打つ必要が……」

「俺にまかせてくだせぃ」

襖をばーんと開けて入ってきた沖田は、自信満々そうに踏ん反り返っている。

面倒な奴に面倒なことを聞かれたと土方が露骨にいやそうな顔を浮かべた。

「……盗み聞きしてんじゃねぇ」

「えぇ〜、せっかく良い手を考えてきたってのにぃ」

わざとらしく口を尖らせる沖田からは憎たらしさしか感じないが、姑息とか狡賢いなどに長けている彼だからこそ時々本当に“良い手”を提案してくれたりした。

同時に“嫌な予感”もするのだが、土方は大きくため息をついて問いかける。

「……分かった。どんな手だ」

「これでさぁ」

そう言って沖田が取り出した箱には“男女入れ替わ〜る デコボッコ教謹製”と分かりやす過ぎる商品名が書かれていた。

デコボッコ教、男女入れ替わり……。思い出したくない嫌な記憶だ。

胡散臭そうな顔をしながら、それでも一応聞いてみた。

「……それをどうするんだよ」

「決まってんじゃねーですかぃ。女になって店に入り込めば探りやすいでしょう?」

「……そいつは言いだしっぺのお前がやってくれるんだろうな」

「まさか。俺があの姿で吉原なんかに行ったらすぐにNo.1になっちまいやすぜぃ」

「……SMクラブのな」

らしい言い分に呆れる土方に、沖田がにや〜〜〜っと満面の笑みを浮かべ、

「だから、潜入するなら不細工のほうが適任でさぁ」

そう言うと箱から懐中電灯のようなものを取り出すと、それを土方に向けてスイッチを入れた。

「なっ……」

電灯の光をまともに顔面に向けられた土方はまぶしくてぎゅっと目を瞑り、怒りとともに目を開けたときには、きょとんとした沖田と赤面している山崎が見えた。

「総悟っ、てめぇぇ……」

「………土方さん……ですかい?」

「ああ?すっとぼけたこと抜かしてんじゃねぇぞっ」

「ふ、副長……その姿……」

「あ?」

声が高くなっているし分かりやすい商品名の通り女に変わってしまったのは分かる。

だが様子のおかしい山崎に指差され、見下ろした自分の姿は、細い指、腕、身体。おさげが唯一“X子”の面影を残すだけで、総子にも負けず劣らずの美女になっていた。

細い自分の身体をぺたぺたと触ったあと、土方は不敵な笑みを漏らす。

「ふっふっふっ。残念だったなぁ、総悟。あの日から俺は、密かにマヨネーズをカロリーハーフに換えてたんだよ!ざまぁみろっ! だから潜入捜査は別の奴に行かせるしかねーなぁ」

してやったりと思って嬉しそうな顔でそう叫んだ土方だったが、沖田はしれっとした顔で、

「そうですかぃ。でもコレ使い捨てなんで一回きりなんでさぁ。なんで、土方さん、お願いしやす」

「……は?……ちょ……」

動揺している間に沖田と山崎の手でかわいい着物に着替えさせられた土方は、あっという間に駕籠に乗せられていた。

「ちゃんと探ってきてくだせぇよ、土方さ〜〜ん」

白いハンカチを振る沖田と山崎に見送られながら、

「ちょっと待てコラァァアアア!!」

怒鳴ってみても女の声だし見た目も可愛いので、迫力がイマイチのNew“X子”だった。



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