原作設定(補完)
□その15
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#144
作成:2015/11/10
万事屋と喧嘩した。理由は思い出したくも無い。
ずっと我慢してたとか言ってぐちぐちぐだぐだ抜かしやがるから、俺も仕事でイラつくことがあったせいもあって、思っていたこと洗いざらい全部ぶちまけてしまった。
酷いことをたくさん言った。
今回ばかりはいくらあいつでも怒ってる。現にあれから三週間、一度も顔を見せない。
ちょっとした喧嘩なんかしょっちゅうで素直に謝れないところも似てる俺たちは、町で偶然会って気まずいと思いながらも挨拶して会話して、そして次に会う約束をする。
なあなあではあるがそうやって仲直りできてきたのに、会えなければそれもできない。
やっぱり直接、素直に謝るしかないか。
「ごめん。俺が悪かった……酷いこと言って本当に、ごめん」
俯き加減に申し訳なさそうな顔で土方はそう呟くが、場所は屯所・副長室、部屋には当然謝るべき相手はいない。
謝る練習ばかり繰り返しても虚しくなるばかりだった。
今日は夕方から非番で、いつもと同じように銀時を探して町をうろついてみたがやはり見つからない。
携帯に表示された万事屋の電話番号へ、通話ボタンを押せばいいだけなのにと食い入るように見つめていると、遠くから騒がしい音が近づいてくるのが聞えてきた。
複数の足音と、怒鳴り声。
「旦那ぁぁ!!ダメですって!取り次ぎなしに入らないでくださいよっ!!」
「うるせぇぇええ!!緊急事態だって言ってんだろうがぁぁ!!」
銀時の声だった。
どっと汗をかいた土方は咄嗟にどこかに隠れてしまおうかと辺りを見回すが、少し遅かったようだ。
ばーんと襖を開けた銀時が仁王立ちで畳に座っている土方を見下ろしている。
銀時の怒り心頭という表情に負けじと睨み返してやるが、内心は謝りたいと思っているのだ。
その気持ちが通じたのか、
「ごめんっ!!マジで俺が悪かった!!酷いこと言って本当に、ごめん!!」
そう叫んで両手と額を畳に付けて土下座しているのは銀時のほうだった。
きょとんとする土方と、乱入した銀時を追いかけてきた隊士たちが廊下で呆然としている。
我に返った土方は隊士たちに“もういい”と手払いで指示すると、彼らは襖をすーっと閉めて戻って行った。
静かになった副長室で、いまだがっつり土下座したままの銀時に声をかける。
「……急に、なんだよ……」
「それがさぁぁ」
顔を上げて話し出した銀時はいつもの銀時だ。
「あの日さ、あんだけ言われてさすがの銀さんもむかついてさ、“もう二度と顔も見たくねぇ!!”って愚痴ってたらさぁ、本当に三週間ちっとも顔も見れなかったんですけどぉぉおお!!なにアレ、言霊!?超怖いっ!」
言霊:言葉には不思議な力があるから悪い事は口にしちゃいけないよ、的なものだ。
本気で怒っていたのは二、三日で、そのあとはいつものように仲直りできないかと町をうろうろしていたのに土方に会えなかった。避けられてるのかと思ったが、目撃者に聞くと“ちょっと前に通った”とか“さっきまで居た”とか言われ、屯所に忍び込んだこともあったのに会えず、三週間あがいていたらしい。
「このまま会えないのかと思ったら、今日は副長室に居るっていうから乗り込んできたんですぅ。もう二度とあんなこと言わねーから、許してください、お願いしますっ!!」
そう言って再び土下座する銀時に、土方は嬉しくて笑ってしまいそうになるのを必死に隠し呟く。
「……しょーがねーから……許してやる……」
「ありがとっ!!」
満面の笑顔で顔を上げた銀時がそのまま土方を抱き締めた。
嬉しさと愛しさが伝わってくるその腕に、土方も我慢できずに背中に回した腕に力を込める。
銀時は、そこでようやく土方も同じ気持ちでいてくれたことを知った。
そうなると、久し振りの土方の体温は即ムラムラの対象になるわけで……。
「……土方くん……次の休み……いつ?」
「……今日……」
「まじでかっ。……えっと、じゃあ、出られる?」
「ん」
嬉しそうに笑った銀時がうきうきした足取りで先導するのに着いて行きながら、
「……俺の言霊のほうが強いんだな……」
なんて呟いてみる。土方の練習が銀時の呪いを打ち破ったのかもしれない。
「なんか言った?」
「…なんでもねー…」
今日は言霊の力を信じて三週間分優しくしてやろうと思う土方だった。
おわり
いつもの喧嘩ネタですが、超謝る銀さんを書いてみたかったのです(笑)
やっぱり銀土は楽しいなぁ。