原作設定(補完)
□その15
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#143
作成:2015/10/23
なんでこんなことになったのか、と今でも時々考える。
天パーのマヌケな寝顔の男に抱き締められながら、寝心地の悪いせんべい布団で寝ているのは何故なのか。
最初は酒の勢いだった。
激務明けの酒が美味くていい感じに酔っ払っていたら、いつの間にか隣に万事屋が座ってて一緒に飲んでいた。
普段は憎たらしいことばかり言うアイツが楽しそうに酒を勧めるから、ついつい飲みすぎてしまったんだと思う。
次に気が付いたら万事屋の狭い部屋で、死んだ魚のような目をキラめかせた万事屋に組み敷かれていた。
いざという時ってこういう時かよっ!
蹴飛ばして逃げるぐらいの力は残っていたが、酔ってたし疲れてたしすっきりしたかったし、まぁいいか、なんて思っちまって。
終わってから死ぬほど後悔したのに、何故かそのあとも関係は続いた。
アイツがやたら懐いてきて俺の周りをウロチョロしだして、それが意外と悪い気がしなかったせいでもある。
喧嘩したり酒を飲んだり肌を合わせたり。
今までこんなヤツは身近に居なかったから、こんな関係も有りか、と思っていた。
なのに……。
「土方、好きだ、すげー好き」
マヌケな顔でそう呟く万事屋。
あ?何とんでもねーこと言い出したんだ、この腐れ天パー。
「……おい……」
「…むにゃ……土方ぁ……ふふ……」
「……てめー……寝たフリならぶっ殺すぞ」
「……すーすー……」
寝たふりでいきなり告白ぶっこきやがったのかと動揺したが、そうじゃないらしい。
翌朝、まだ暗いうちに帰ろうとする俺に、
「まったね〜、土方くん」
寝惚けた顔で見送る万事屋はいつも通りで、昨夜のアレは語尾に「パフェが」とか付いていたに違いない。
そんな俺の希望と願望と切望は虚しく、
「…土方……好き……可愛いぞコノヤロー……」
それから会うたびにこの寝言は繰り返されているわけで……。
ヤバイ……洗脳されそうだ……。
万事屋の顔を見るたびに思い出すし、だんだんそれが平気になってくるし、むしろ嬉しくなってきてるしぃぃぃ。
それでも、アレが本当にただの寝言で、万事屋にはこれっぽっちもそんな気がないのだとしたら。
当人に聞くこともできずモヤモヤしていた俺は、確認する絶好の相手を見つけた。
「こんにちは、土方さん」
万事屋んところのメガネがあいさつしてきたので、さりげなく聞いてみることにした。
「お前んとこの…もじゃもじゃ……変な寝言、言わねーか?」(←全然さりげなくない)
「…変な寝言?」
「あー……」
内容を言ったら万事屋がコイツに軽蔑されるかもしれねー、なんて言えばいいのか……と悩んでいたら、
「ぷっ。聞いたんですか?」
「?」
「『土方好きだー』とか」
「なっ…」
知っていたらしい。よけいな恥をかいてしまった。
「銀さん、隠し事できないんですよ、寝言で全部しゃべっちゃうんで。貧しい知人に金を貸してやったとか言いながら、パチンコで摩ってたり」
隠し事できない?じゃあ、あれは……。
「銀さんの本音だと思いますよ」
俺の考えをお見通しなのか、メガネはそう言って笑った。
「相変わらず疲れた顔してんなぁ、副長さんは」
「……うるせー。年中暇なてめーとは違うんだよ」
「銀さんだってやるときゃやるよ!仕事がないだけで!」
「いばんな」
会えばいつもと同じように憎まれ口を叩き合い、一緒に酒を飲む。
万事屋は本音を言うおうとしないし、俺も聞こうとしない。
そのほうが良いなら、コイツに合わせてやろうと思う。
だから、せめて……。
「土方ぁ……好きだぁ」
「はいはい、俺もだよ」
寝てるコイツにぐらい、本当のことを言ってやろうと思いました。あれ?作文?
おわり
……まぁ、いつもどおりありきたりななんてことない話でした。