原作設定(補完)

□その15
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#141

作成:2015/10/20




「よー、万事屋。相変わらず暇そうだな」

団子屋でぼうっとしている銀時にそう声をかけてきたのは土方……と同じ制服を着た近藤だった。銀時の顔が小さくがっかりに変わる。

「あんたはいつも忙しそうだな」

「だっはっは。おれは江戸のみんなとお妙さんを守るお巡りさんだからなっ!」

嫌味で言った銀時の言葉に、近藤は豪快に笑いながらそう答えた。ゴリラには嫌味も通じないらしい。

「そのお巡りさんがこんなところでなにやってんですか?」

「市中見廻りに出たんだがなぁ、総悟とはぐれちまって。トシの情報だとこのあたりなら団子屋のはずだったんだが……見てねーか?」

キョロキョロと辺りを見回す近藤。

「……見てねーけど……何?ゴリさん、局長自ら見廻りしてんの?」

「今日はトシの代わりなんだよ」

銀時の胸がもやっと曇る。そんなこと聞いてなかった。

銀時がここでぼうっとしているのも実は土方が来るのを待っていたのだし、それが忙しい土方と会える唯一の時間だった。

土方もそれが分かっているから忙しくても顔を見せに出てきてくれたのに。

何かあったのか?それを近藤に聞くことはできなかった。

付き合ってることをまだ近藤に話せていないと言う土方。さらっと聞いてしまえばいいのに、内緒にしているというやましさが口を鈍らせる。

「……へえ……」

「それがさー、今日はトシのやつ……」

素っ気無く答えた銀時に、ありがたいことに近藤から話し出してくれた。とんでもない話を。

「急な見合いでさ〜」

「………あ?」

見合い!?

「警察庁のお偉いさんのお嬢さんでなー、俺たちにはもったいないぐらいの相手なんだけど、どうしてもトシにって言われてなぁ」

ちょ、ちょっ、待っ……

「これの話が上手くいけば真選組は安泰なんだよ」

……組のため?

「あっ!もちろん、トシにとって良い話だからだぞっ!せっかくイケメンで頭も良くて仕事もできるだからさー、結婚して幸せになって欲しいんだよなー」

それをアイツに言ったのか?……だったらアイツは見合いを断れない。

大好きで大事な近藤に、大好きで大事な真選組のことを持ち出されたら土方は笑って嫁に行く(←間違い)んだと、銀時は思った。

ふらりと立ち上がると、

「おい?万事屋?」

近藤が声をかけたのにも答えず、銀時はふらふらおぼつかない足取りで歩き出す。

人にぶつかったり看板にぶつかったりしている銀時を見送り、近藤は小さく笑った。




どうやって万事屋まで帰ってきたのか覚えていないが、銀時はふらふらのままソファに倒れ込んだ。なぜか身体のあちこちが痛い。

一番痛いのは心臓だった。

近藤や真選組が一番大事でも仕方ないと思っていた。その次でいいから、と思っていた。

その一番大事なもののためなら土方はなんでも捨てることができる。自分の心も、銀時も。

心臓が痛い。

結婚なんかしたら別れなきゃならないよな。愛人でもいいから、なんて言ったらアイツを困らせる。泣いちゃうかもしんねー。

ソファに顔をぐりぐりと埋めながら、想像して泣きそうになるのを必死で我慢した。



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