学園設定(補完)
□逆3Z−その2
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#14
作成:2015/12/26
自分が担任する教室の掲示板に貼られた紙を見つけ、土方は小さく溜め息をついた。
このクラスは生徒同士がずいぶん仲が良く、それは嬉しいことだがうるさすぎて他の先生から苦情がでるほどだ。
どうやらクリスマスだというのにクラスで集まってカラオケにでも行くらしい。
土方が見つめていたのは場所ではなく参加メンバーの名前。そこに坂田銀時の名前を見つけて複雑な気持ちになった。
見た目の派手さとは裏腹にいたって普通のいまどきの生徒だった彼と、夏休みひょんなことで学校外で顔を合わせていたら何故かやたら懐かれてしまい、その理由は新学期が始まってから知らされる。
真剣な顔で「好きだ」と告白され、それに対し「学校とは違う環境で一緒にいたせいだ。三ヶ月もすれば忘れる」と答えた。
生徒の、しかも男子生徒の告白なんて真面目に受け取るわけにはいかない。
ところが、「じゃあ、忘れてなかったら……三ヵ月後……12月、24日にもう一度告るから!」と宣言されたのだ。
それから早三ヶ月。もうすぐ24日だというのに何も言って来ない、予定も決まっている、のは“そういうこと”なのだろう。
『心配するまでもなかったってことだろ』
こうなると予想したのは自分だし、そのほうが良いに決まっているのに土方の胸はなぜかもやもやしている。
そのとき、教室のドアが開いて神楽と志村妙が入ってきて、土方が居るのを見て寄ってきた。
「先生っ、これ見たアルか?先生も来るアル!」
「あ?教師なんて居ねーほうがいいだろ」
「土方先生は別ですよ。みんな喜びます。ね?」
うんと言うまで離してくれなさそうな勢いに、土方は困ったような顔をしながらも承諾した。
終業式の後、帰ろうとする銀時を神楽が呼び止める。
「銀ちゃんっ、24日ちゃんと来るアルよ!」
「はいはい」
「せっかく先生も誘ってやったんだから、来ないと誰かに取られても知らねーアルからな」
「はいは……ああ!? なに?誰を誘ったって!?」
面倒くさそうに返事をしながら教室を出たが、戻ってきて聞き返してしまった。
「土方ネ!銀ちゃんが喜ぶだろうと思って誘っておいたヨ」
「ちょ……ええぇぇ……先生、来るって?」
「だからちゃんと来いって言ってるアル」
良い事をしたと思っていたのに銀時の反応がイマイチで、神楽はつまらなそうな顔をしている。
喜べない理由が銀時にはあった。
そして24日のお昼過ぎ。
もうだいぶ盛り上がっている会場にやってきた土方に、女生徒たちがきゃっきゃっとはしゃぎながら集まってくる。
酒は飲むなと念を押そうかと思ったが、さすがに卒業と受験を控えた自分たちの首を絞めるような真似はしないようで、土方にもしっかりウーロン茶を出してきた。
駆けつけ一曲、とマイクを握らされれそうになるのを断固拒否しながら、部屋の中を見回す。
『……坂田が居ない?……』
あの目立つ銀髪天パーを見逃すはずがない。
「先生っ、一緒にダイエットするネ!」
「神楽ちゃん、デュエットだよ」
新八に訂正されて神楽が文句を言い出す前に、土方が問いかける。
「坂田どうしたんだ?遅れて来るのか?」
「銀ちゃん、来ないネ。あとでシバくアル」
「約束があったって言うんだから仕方ないよ」
むくれる神楽を宥める新八の言葉に、土方はドキリとした。
『…約束?…』
“24日にもう一度告るから”
それは銀時の言った言葉が胸を過ぎったからだ。
そして、もしそれが当たっているのなら今すぐこの場から飛び出したいと思っている自分に戸惑う。
この三ヶ月。告白してきたことも諦めないと言ったことも、感じさせない素振りで土方に側に居た銀時。
他の生徒と変わらぬ態度を見せながら、土方が銀時を気にせずにはいられないタイミングで笑っていた。
アレも、今日のコレも、銀時の作戦なのかもしれないと気付いたのに、土方は胸のもやもやに従って動くことに決めた。
新八にそっと金を渡し、
「帰りにみんなに温かいものでも買ってやれ。これ以上ハメを外すなよ」
そう言って他の生徒には気付かれないように部屋を出る。
それから銀時が待っているだろう場所へ向かった。
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