学園設定(補完)
□逆3Z−その2
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早朝、職員室の自分の机で土方は眉間にシワを寄せる。昨夜見た夢が彼を悩ませていた。
近藤の道場で確かにああいうことがあったが、大学を経て教師として忙しくしている間に忘れてしまっていたこと。
悩んでいるのあの少年との淡い思い出でなく、その正体だ。
『もしかして……いやいや、まさか……だけど……』
名前は銀。年齢もあれから8年経っているから高3で合ってはいる。
あいにく顔はおぼろげだが、生意気な口ぶりは似ているような気がしないでもないし、もふもふっとした髪質も同じだ。
坂田の銀髪は天然証明書が出ているので本物に間違いのだが、銀の髪は黒だった。
「どうしたトシ、難しい顔して」
向かいの席に座った近藤にそう聞かれて、銀のことを問おうとして言葉を飲み込む。
近藤は大学を卒業してからすぐに地元であるこの高校に赴任したが、父親の道場のほうは手伝っていない。
大学の長期休みに何度か道場に顔を出したが銀は来なかったし、銀がどうしているかなんて知るはずもないだろうから。
「……なんでもねーよ」
「そうか?」
ここはやっぱり本人に聞くのが手っ取り早いだろう。
幸い今日はZ組で数学もあるし、捕まえて問い詰めてやろうと思ったら、
「…坂田」
「いませーん」
休まれた。返事をした高杉たちのほうをチラリと見たら、“知りません”という顔で肩を竦める。
初めて顔を合わせたあの日から、少なくとも数学の授業には欠かさず出席していたのに。
それでも遅刻常習犯なのでこれから来るかもしれないと、昼休みと放課後にもこっそり教室を覗いてみたのに、やっぱり居なかった。
いままでさんざん坂田から逃げ回っていた自分が、坂田を探してうろうろしているのが腹立たしくなって、土方は“坂田から確認”するのを諦めた。
『新八なら何か知ってるかもしれない』
これから部活動の時間だが、近藤の道場に通っていた新八は今年新入生としてこの高校に入ってきていた。
しかし剣道部に入部して土方と再会したことを驚き喜んでくれたが、銀のとこは何も言ってなかったから望み薄かもしれない。
そして部活に来てみれば、
「……志村はどうした」
「クラス委員の仕事で遅刻するそうでーす」
また空ぶってしまい土方は肩を落とす。
この胸のモヤモヤを早く何とかしたくて新八が来ないかと何度も道場の入り口を見ていたら、モヤモヤの主がコッソリと動き回っているのが見えた。
『あの野郎っ!授業は出なかったくせに俺に会いにだけ来やがった!!』
と心で叫んだものの、
『…………何言ってんだ俺ぁ』
思わず自惚れてしまった自分に恥ずかしくなっていたとき、遅れてやってきた新八が建物の陰に隠れている銀時を見つけ立ち止まる。
「……もしかして、銀さん?」
まったくの偶然だったが役者が揃った。
新八が驚いている様子なのでやっぱり銀がどうしているのか知らなかったようだし、声をかけられた銀時は無表情で新八を見ている。
土方はごくりとツバを飲み込んで、2人に気付かれないように出入り口に近付いた。
何も言わない銀時に、新八と、さらに土方も“人違いか?”と思い始めたとき、銀時はにやりと笑った。
「新八か? おまっ、全然変わってねーなぁ」
「やっぱり銀さんっ」
再会を喜ぶ新八と、
『やっぱり銀んんんんん!?』
再会を驚く土方だった。
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