学園設定(補完)

□逆3Z−その2
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それから数ヶ月は慌しく流れていく。

年末年始、受験、それが終わって近藤が復帰しても、土方はできるだけ道場に顔を出した。

子供たちに出来るだけのことを教えてやりたいと思う。3月になってこの地を離れてしまう前に。

それは将来教師になりたいと思っているからだったかもしれないが、その為の力強い支えになってくれるような気がした。

特に銀のことは近藤が任せてくれたので、土方がほとんどマンツーマンで指導する。

本気を出されると全然敵わない土方に、子供ながらに悔しそうな顔をして、それでも負けじと挑んでくるのが楽しかった。

教えることを吸収してどんどんもっともっと強くなって欲しかったが、それが難しいかもしれないことが心残りだ。

そして3月、2人が子供たちに教えることができる最後の日。

「ゴリ先生、土方先生、ありがとうございましたぁ」

半泣きのくせに元気良く挨拶をしてくる子供たちに、2人も内心うるっとしてしまう。

「お前らぁぁ!大学を卒業して戻ってきたらまた教えてやるからなぁぁぁ!」

「本当ぉぉ!?」

「……いや、あんたが戻ってくる頃にはみんな小学生じゃねーし」

「ダメだよ、みんな。卒業できなかったときにプレッシャーになるからね、期待しないでおこうね」

「はぁい」

「……じ、地味に酷いこと言ってねーか」

土方と新八にイジメられてしょんぼりしている近藤を子供たちが楽しげにあやしているとき、土方は銀の姿がないことに気付いた。

辺りを見回しながら庭へ出たら縁側に座っている銀を見つけ、その隣に座る。

こちらを見もせず何か思いふけっている様子に、土方はずっと考えていたことを口にした。

「道場に通えるように俺が頼んでやるよ」

自分で言えないのなら変わりに言ってやれば、もっと強くなる銀を見ることができるんじゃないかと考えていた。

が、銀は前を向いたまま、“諦めた”とかじゃない、すっきりした顔で答える。

「いい。あそこにはまだちっこいヤツらとかもいて面倒みなきゃならねーし」

「……そうか……」

中学校に入れば部活動でもできる、なんてことも考えていたがそれは必要ないのかもしれない。

それが銀にとって辛いとか寂しいことじゃないならいいと思った。

もっと大人になって自由になってからでもやり直すことは可能だから、それに期待しようと黒いもふもふの頭を撫でてやった。

その手が、小さい両手でがっしりと掴まれる。

「!?」

驚く土方に、銀はとんでもないことを言いだした。

「それはいいから、ほ、他に頼みがあるんだけど……」

「頼み?」

「お、お、俺と……結婚してくださいっ!」

思いがけない……というか、思いがけるはずもない唐突なプロポーズに、土方は一瞬頭が真っ白になってしまった。

すぐ我に返り、銀が冗談でそんなことを言いだしたわけじゃないのは理解した。真っ赤に染まった顔は初めて見る。

冗談じゃないのは分かったが、万が一のこともあるので確認はしておきたい。

「……てめーは……女子だったか?」

「んなわけねぇだろうがぁぁ!!見せようか!?」

そう叫んで袴を下ろそうとする銀を、土方は笑いながら制する。

「遠慮しとく。だけど……くくっ、そうくるか……」

やたらと土方に絡んだり挑んだりしてくるのはライバルだと思われていたからだと思っていたが、恋愛対象としてだったのは意外だった。

相手がこんな子供では“男”だからと嫌悪する気も起きず、土方は小さく笑う。

「なんで俺だよ」

「…強いし、優しいし…キレイだし…」

真っ赤になってそんなことを言われるとさすがに気恥ずかしかったが、少し安心した。

これで“男らしいから”などと言われたら、この齢にして真性なのかと疑うところだが、そうじゃなさそうだ。

「大丈夫だよ。あと数年もしたら、てめーの周りの女の子達だって優しくてキレイになっていくから」

「?」

「だから俺のことなんて気のせいだって気付けるはずだ」

離れて会わなくなればすぐに忘れてくれるだろう。

相手が子供だからじゃなく、土方は“拒絶”にならない言葉を選んだ。“親に捨てられた”と言われて怒りに震えた背中を思い出したからだ。

だが勘の良い銀は、言い方を柔らかくしても自分を振るための言葉だと分かったらしい。

「気のせいじゃねえ!!本気で好きだ!ずっと好きなんだからなっ!!」

立ち上がり力いっぱいそう叫んだ銀に、その本気が本当だと思うからこそ土方は困ったように笑う。

それすらも察した銀は、すぐに気持ちを切り替えた。どっちにしろ土方は大学に行ってしまうのだから、今は離れるしかない。

「だったら証明してやるっ」

「証明?」

「気持ちは変わらねーって!!大人になったらもう一回言うから、そんときはちゃんと考えろよ!!」

鼻息荒く宣言して銀は道場へ駆け込んで行った……と思ったら戻ってきて、

「覚えてろコノヤロー!!」

そう釘を刺して今度こそ道場へ消えて行った。おそらく着替えてそのまま帰ってしまうのだろう。

残された土方はぽかんとしたあと、湧きあがってくる笑いに肩を震わせる。

剣道の腕前も、思いのほか純情な性格も、激しい想いも、驚かされることばかりだったなと思う土方だった。


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