学園設定(補完)

□逆3Z−その2
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「頼む、トシっ!!このとーりっ!!」

力いっぱい両手を合わせて頭を下げる近藤に、土方は眉を寄せながら困った顔をした

「俺はガキは苦手なんだよ」

「いつも通りで大丈夫だしっ!聞き分け良い子らなんだよっ」

「……だけど……」

「トシは俺と一緒の大学に行きたくねーのかっ!?今が大事なときなんだよっ!」

それを言われてしまったら断りにくくなる。

大学受験を控えた11月の終わり。部活に身を入れすぎたせいか、元来からの勉強嫌いのせいか、成績がいまいち芳しくない近藤は家庭教師を頼むことにしたらしい。

が、部活を引退してようやく本気で勉強する気になっても、近藤は実家の道場で小学生たちを教える仕事を持っていた。

そのため、その代理を土方に懇願しているのである。

幸い土方のほうは希望の大学には余裕の判定を貰っていた。

近藤と一緒の大学に行きたくてランクを下げたことは内緒にしているが、近藤にとってはギリギリなのでなんとしても頑張ってもらいたい。

なので、

「……分かった。いつも通りでいいなら、なんとかやってみる」

と答えるしかなかった。

「トシィィィィ、ありがとうぅぅぅ!!俺、頑張るからなっ!!」

「おう、頑張ってくれ……マジで」

「それじゃ早速、お妙さぁぁぁん!!」

「ちょっと待てぇぇぇ!! なんだ“お妙”ってっ」

「それがなぁ、お妙さんが家庭教師引き受けてくれるって言うんだよぉ」

“お妙”とは土方と近藤と同じクラスで、近藤が高校に入ったときからずっとアプローチ……というか、ストーカーまがいのことをしてきた女生徒のことだ。

近藤の熱烈な告白を、暴力や暴力や暴力で拒否ってきた女がどんな風の吹き回しなのか。

「き、気のせいじゃねーのか?」

「そんなことないでっす。時給5000円で引き受けてくれるって約束しましたっ」

「ご、5000円んんん!?」

「新八くんが道場に行ってる時間なら空いてるって言うから、道場はトシに頼むしかないんだよ」

「……へえ……」

「やっぱりアレだよな、未来の夫には大学ぐらい行って欲しいっていう女心だよなっ!絶対に合格してみせるからなっ!」

「……頑張れよ」

嬉々として駆けて行く近藤を見送りながら、土方は深い溜め息をつく。

“しつこいストーカーを大学という遠い所へ追いやれて、さらにぼったくりな家庭教師代まで稼げるとなれば、数時間ぐらい我慢しよう”という妙の考えが読み取れた。

まあ近藤が自分の貯金をどう使おうが勝手だし、それでやる気になってくれるならと暖かく見守ることにして、自分は“苦手な子供相手に剣道の指導”という課題に専念する土方だった。




「というわけで、しらばくの間は俺がてめー……君たちの指導をすることになった」

「はーい」

緊張する土方とは裏腹に、子供たちは案外フレンドリーに納得してくれた。

というのも、近藤に頼まれて数回、練習試合っぽい指導をしたことがあったからだ。

土方のほうは慣れない子供相手に手加減していたのに、子供たちは容赦なく向かってくるのでボロボロにされた苦い思い出。

胴着を来て目の前に並ぶ9人の子供に、土方は首を傾げる。

『あれ?近藤さんには10人って聞いたけど……』

念のために名簿を見たらやっぱり9人で、変だなと思いながら練習を始めようとすると、子供の一人が挙動不審に辺りを見回している。

「どうした?」

「い、いえっ、なんでもないですっ」

慌てて返事をしたメガネの小さい子は、確か妙の弟の新八だ。

子供たちが並んで準備運動をするのを見ながら、『9人だと2人1組の練習には1人足りないな』なんて考えていると、視界の隅で怪しい動きをするものに気付いた。

開いた大きな扉から見える庭の木々の間を、黒いもふもふっとしたものが左右に動いている。よく見ると人間の頭のようだ。

『覗きかっ!?子供相手にド変態野郎めっ!』

竹刀を掴むと土方は庭に出て、

「出て来いっ!来ないならこっちから行くぞっ!」

コテンパンにしてやる気でそう叫んだら、動きを止めた黒いもふもふはしぶしぶという感じに木の間から出て来る。

もふもふっとしていたので大人の頭かと思ったら、それは道場にいる子供たちと変わらないぐらいの男子だった。


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