学園設定(補完)

□逆3Z−その2
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土方は早朝の廊下を憂鬱な気分で歩いていた。

この春、赴任してきた早々に3年生の数学を任されてしまった。教師になって4年目の若輩者としては、進学を控え今が肝心の3年生というのは緊張するものだ。

緊張はするが、ほとんどが進学するというA組あたりは真剣で遣り甲斐がある。“熱血、真面目、堅い”と言われがちな自分には合っていた。

が、今から向かうZ組というのはその真逆で気が滅入る。

『だいたい“Z”組ってなんだ、4クラスしかないのに……生徒たちがそう希望したらしいけど……許可する学校も学校だろ』

“D組なんてつまらない、Z組にしてくれ”と言いだしたクラスだけあって、ふざけた生徒が多かった。

チャイムと同時に教室に入ると、

「起立、礼、おはようございまーす」

至って普通に始まる挨拶だったが、そのあとがふざけていた。

「腕立て伏せ30回〜」

という日直の悪ふざけに、クラス全員がガタガタと机の隙間に座って腕立てをやろうとする。

止めないと本当に30回やって授業を潰そうとするので、

「それは昼休みにでもやってくれ。全員着席」

そう言ったら、半笑いでブーブー文句を言いながらようやく席に座るのだった。

『……疲れる……』

そう思いながらも1年の我慢だと思って頑張るしかない。

出席をとる間も何かとふざける生徒たちをスルーしつつ、名簿の上から順番に名前を呼んでチェックを付けながら手を止める。

新学期になって2週間目になるのに数学をずっと欠席している生徒がいた。

どうせ今日も居ないのだろうと思いながら名前を呼んだら、

「坂田」

「は〜い」

返事が返ってきて思わず顔を上げてしまった。

生徒は全員自分を見ているのに、返事をしたのが誰かすぐに分かった。こんなクラスだけれど生徒の顔はある程度覚えていたのに、見覚えのない男子が居る。

『……って、銀髪っ!?なんだそれっ……』

身なりには割と自由な学校だったけれど、この髪の色は有りなのか?、と思わずにはいられないほどの見事な銀髪だった。

なので一瞬、

『もしかしてハーフとか留学生とか……』

と思ったのだが、名前は“銀時”で、ちょっと古臭いぐらいの日本名だ。

ようするに“さすがZ組”と付けたくなるぐらいの変わり者だということだろう。他の生徒と同様に、係わり合いにならないようにしようと思った。

……のに。

『なんか……めっちゃ見られてるんだけどぉぉぉぉぉ!?』

授業をしている間中、ずっと背中に突き刺さる視線。

何度かチラリと確認してみたが、食い入るように自分を見ているのは間違いなく坂田だった。

目つきの悪い高杉という生徒にそんな風に見られていたら“喧嘩売ってんのか?”と思えるが、坂田はむしろ機嫌が良さそうな好意的な視線だったので余計に不審だ。

なのでそれ以上視線を合わせることもできず、ひたすら無視し授業を終えて、逃げるように教室を出た。

それじゃなくても憂鬱なクラスなのに、さらに不安の種が一つ増えたなと思っていたら、それは授業だけで収まらなかった。

休憩時間や昼休み、放課後。どこにいてもあの“視線”を感じてしまう。

気のせいのはずがない。視線を感じるたびに辺りを見回してみたが、いつもあの目立つ銀髪がチラチラと見切れているからだ。

『ええぇぇぇ、何だよ、怖ぇぇぇぇ』

何をした覚えもないが、嫌われてしまったのか、気に入られてしまったのか。

係わり合いにならないようにしようと思っていたのに、ゴールデンウィークを前に我慢できずに対峙することになった。


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