学園設定(補完)
□3Z−その2
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#16
作成:2016/01/03
元旦の朝、家族揃ってお雑煮とお節を食べ、お年玉を貰った土方は部屋に戻ると携帯を手に取った。
今日は一緒に初詣に行く約束だったので、前もってメールをしようと思ってのことだったが、画面には数件の着信履歴とメールが表示されている。
それは全て銀八からのもので、土方は慌ててメールを開いた。
“悪い、風邪引いた。初詣は延期してください。すいません”
後半何故か敬語になっていてよっぽど具合が悪いのかと、土方は読んですぐに電話に切り替える。
「…………銀八っ?大丈夫か?」
『…おう…ゴホッゴホッ…たいしたこと…ゴホッ…ねーから……』
声はガラガラでセキも酷そうで大丈夫とは思えない。
「俺、見舞いに…」
『ダメ』
土方がそう言い出すことが分かっていたのか、銀八は即答できっぱりと言い切った。
「…なんでだよ」
『風邪移すわけにはいかねーんだよ。分かれ』
「……分かった」
素っ気無い言い方をしても銀八が受験を控えた土方を思っていることが分かるから、そう答えるしかない。
クリスマスに会ったきり電話とメールしかしてないため、今日会えることを楽しみにしていたけれど、我が儘を言ったら銀八が困る。
ベッドに寝転がって心配になったり拗ねたりしているとメールが届いた。
「トシぃ、あけおめ〜」
「トシぃ、こと…しこそ死ねコノヤロー」
待ち合わせの寺の入り口で土方を見つけるなり挨拶してくる近藤と、憎たらしいことを言う沖田。
「……おめでとう、近藤さん。お前が死ね、沖田」
メールは近藤からで、初詣に行くからちょっとだけでも会えないかという内容だった。
“ちょっとだけでも”と書いてあったのは今日土方が初詣に行くということと、一人じゃないということを知っていたからだ。
「銀八は?一緒に来てねーの?」
「今更隠すことねーですぜぃ」
「…先生、風邪引いてるからダメだって」
しょんぼりと答えた土方に、二人は目を見合わせ、
「………」
「ぶははははは」
そして大爆笑する。訳が分からない土方に、腹を抱えながら2人が教えてくれた。
「やっぱりアレ、銀八だったんだ」
「?」
「昨日なぁ……」
+
「総悟?どうした、こんな時間に」
「近藤さん。明日の雑煮に入れるもの買い忘れたとかで、買いに行くところでさぁ」
「総悟はミツバさんにお願いされると断れないからなぁ」
近藤が嬉しそうに言うので沖田が照れくさそうに反論しようとしたとき、どこからか騒がしい声が聞えてきた。
声のしたほうを見上げた先には、100段ぐらいの石段の登った上にお寺がある。
毎年除夜の鐘も鳴らさないような小さな寺なので、大晦日の深夜には人の出入りはないはずだが誰か居るようだった。
どうやら酔っ払いのようなので二人は構わず歩き出し、背後に微かに聞こえた会話。
「もう一軒!ここだけ!」
「いい加減にしろ、寺や神社を見るたびに寄りおって」
「数撃ちゃ当たるっていうだろうがぁ!お願いしといたらどれかは聞いてくれんだよ!」
「そんな神頼みせんでも生徒たちは頑張ってるぞ」
「分かってますぅ。でも俺にはもう他にしてやることがねーんだから…そんぐらいしかできねーんだから…」
「……とっとと行って来い」
「がってん!」
「………おい、ちょっと待て!そっちは池……」
それから大きな水しぶきが上がるような音がしたが、近藤と沖田は、
「……今の…聞いたことあるような声だったな」
「気のせいじゃねーですかぃ」
「だよな。ほら買い物付き合うからさっさと行ってこよう」
「へ〜い」
気にせずその場を離れるのだった。
+
「後で銀八の声に似てたなぁと思ったんだけどな、やっぱりそうだったかぁ」
近藤たちは面白そうにしていたが、土方は胸がきゅーっと痛くなった。
風邪を引いた理由はマヌケでも、酔っ払っていてなお自分たちのことを考えている銀八の気持ちが嬉しくて苦しい。
境内に向かっていた土方の足が止まる。
「……近藤さん、俺、やっぱり帰る」
「おう」
「先生によろしくお伝えくだせぇ」
にいっと笑って嬉しそうな近藤と、にやにや笑って可笑しそうな沖田に見送られて、土方は銀八の所へ向かった。
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