虎牛設定(補完)

□その1
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「あ!村だ!」
村の入り口を見つけて十四郎は嬉しそうな顔をし、繋いでいた手を離した。

それをとても寂しいと思ってしまった銀時に、十四郎は無邪気に止めを刺してくれる。

「ありがとう。じゃあな」

笑顔だけ残して村へ入っていく十四郎を見送り、銀時はトボトボと森へ戻って行った。

『また会いたいな……会えるかな……』

今まではどこの森も村も通り過ぎるだけの銀時だったが、しばらくはここを離れられそうにない。



「ただいま〜」

十四郎が村へ戻ってくると、なぜかみんなが集まっていて、十四郎の顔を見た途端に多様な表情をしていた。

「ちっ、戻ってきやがった」

「トシ〜〜〜〜っ!!!」

舌打ちする鼠に、涙を流しながら駆け寄ってきて抱きつく馬。

「こ、近藤さん?どうしたんだ?」

「お、お前がっ、帰ってこないからっ、虎に食われたんじゃねーかって!良かった〜、無事だったんだなっ!」

「……虎?」

首を傾げる十四郎に、犬が教えてくれた。

「僕たち森の中で虎に会ったんですよ。十四郎さん、会わなかったですね」

「会ったぞ」

「ええぇぇええ!?」

全員が揃って驚いた声を上げたことに驚く十四郎の肩をつかんで、近藤はケガがないか体中を見回す。

「ト、トシィ!?大丈夫だったのかっ!?」

「村まで送ってくれた」

「送っ……?虎が?」

「? 虎ってなんだ?」

村中の緊迫感を奪う十四郎の気の抜けた質問に、みんなががっくりと肩を落とした。

総悟が呆れたように毒づく。

「…だから牛はバカなんでぃ…」

「んだとコラァ!」

「トシ、虎っていうのは肉食の獣なんだ。お前も俺達も食べられてしまうんだぞ」

「…アイツが?…」

近藤にそう言われても、たった今まで一緒だった銀時と虎のイメージが重ならず納得できない顔をする十四郎。

虎がまだ近くにいるかもしれないからと村中がピリピリする中、

『明日また森に行ってみよう』

とのん気なことを考える牛だった。



翌日。

村からだいぶ離れた森の木の上で、銀時はぼんやりとしていた。

誰かに見つかったら警戒されて十四郎に会えなくなるかもしれないと、一応隠れているつもりのようだ。

『もしかしたらもう会えないかも……鼠と犬にも会ったしな……十四郎、もう森に来ないかな』

しっぽをパタンパタンと振りながらしょんぼりしていると、ふと嬉しい匂いを感じて慌てて木から下りる。

匂いと共に声が近づいてきた。

「銀時〜……居るか〜?」

パタパタと身だしなみを整えると、銀時は興味ありませんみたいな顔で十四郎の前に出てきた。

「な、なんだ、またお前かよ」

「銀時っ」

十四郎が嬉しそうな顔で駆け寄ってくるので、嬉しくてしっぽをビッタンビッタン振りたくなるのを堪える。

それと同時に心配にもなり、素っ気無く言った。

「一匹でこんなとこに来るんじゃねーよ、危ないだろうが」

「大丈夫だ。俺は強えーからっ」

「………お前がぁ?」

上から下までどう見ても強さなんて感じられないと失笑する銀時に、十四郎はサッと両手を握りこぶしにして胸元に運び、

「パンチ!パンチ!ジャブ!ジャブ!アッパー!!」

牛のくせにものすごくキレのいい技を繰り出してくれた。

「ボクシングかよっ!!だ、誰に習ったんだ?カンガルーか?」

「兎」

「うさっ…」

「俺の森には武闘家の兎一家がいるんだ」

武闘家うさぎ。可愛いんだか強いんだか分からない呼称に銀時が顔をしかめていると、十四郎が真面目な顔で言った。

「お前も強いんだろ?」

「あ?」

「村のみんなが虎に怯えてる。お前、俺達を食うのか?」

銀時の胸がきりきりと痛んだ。

何もしていないのに虎というだけで怯えられて逃げられてきた。

だが十四郎の目は真っ直ぐに銀時の目を見て、怯えている様子は少しもない。

だから銀時は初めてちゃんと否定する言葉が言えた。

「食わねーよ。……俺、肉、嫌いだし」

それは本当のことだった。虎のくせに肉が食えないからと群れを追い出され、子供一人で生きているところを先生に拾われたのだ。


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