学園設定(補完)

□同級生−その1
18ページ/20ページ

#17

作成:2016/02/09




金曜日、昼休みの屋上。

「あ、いたいた。何してんのよ、土方くんにチョコ渡しに行くんじゃないの〜」

「ん〜」

「え、渡さないの?」

「……私、14日に渡す」

「でも日曜日だよ」

「当日が日曜日だからって今日渡すの、なんか義理っぽいじゃない」

「…そうだけど」

「私、本気なの!ちゃんとチョコ渡して告白したいの!」

「じゃあどうするの?家まで行く?」

「ううん。剣道部って日曜日も部活なんだって。近藤くんが言ってた。だから部活の終わりに渡そうと思う」

「剣道部のやつらバカばっかりだからからかわれちゃうよ」

「……いいの!土方くんに分かってもらうために頑張るの!」

「よーし!頑張れっ!」

「うん!」



やたら気合の入った女子の声を聞きながら、銀時はいちご牛乳を一気に飲み干す。

壁にもたれて昼食を食べていた銀時の姿は、女生徒からは見えなかったようだ。

「相変わらずモテモテだなぁ、土方くんは」

まめパンの袋を丸めながらそう呟くが、それは冷やかしとか羨ましいからとかではなかった。

幼馴染でいつも一緒に遊んでいた土方と同じ高校に進んではみたが、クラスも部活も別れてみるとだんだん距離が開いてくる。

なんのために勉強を頑張ってこの学校に入ったのか、土方は知らない。

『俺なんかに好きだって思われてるより、可愛い女子に好かれてたほうがアイツも嬉しいよな』

昼休み終了のチャイムが鳴り、銀時は勢い良く立ち上がり、

「だから邪魔はしませんよっと」

そう言いながらも胸が痛むのに気づかないフリをして教室に戻るのだった。




日曜日、お昼近くの銀時宅。

ああは言ったものの、昨夜はなんだかもやもやして眠れなかった銀時は、眠そうなだらしない顔をして二階の自室から降りてきた。

青春っぽく部屋に篭もって落ち込んだりしてみたいが、いかんせん腹は減るものだ。

「……あ〜、腹減った……母ちゃん、朝飯……」

「朝飯って時間じゃねーよ」

「じゃあ昼飯…………って、おまえ、何やってんのぉぉおお!?」

リビングのソファからかけられた聞き覚えのある声に、銀時の眠気は一気に醒めた。

ソファに座って銀時の寝坊に不満そうな顔をしているのは土方だった。

「何って、遊びに来たんだよ」

「ええっ? だ、だって、部活は……」

時計を見ると12時前で、剣道部はいつも朝から夕方ぐらいまで部活をしていたはずだ。

「それが近藤さんが急に部活休みにするとか言い出してよ」

「め、めずらしいな」

「部活大好きだからな、あの人。だけど部活より好きな志村(姉)が、バレンタインデーに誰かにチョコ上げるんじゃないかって気になるらしくって……」

「……またストーカーかよ。こりねーな、あいつ」

志村(姉)は銀時と同じクラスのため、土方の部活仲間の近藤がしょっちゅうクラスに来ては殴られているのを見ていた。

そのおかげで部活は休みになり土方が遊びに来てくれたのだが、銀時の脳裏に昨日の女生徒の会話が浮かぶ。

「……だけど……」

「ん?」

言ったらどうするだろう。待ちぼうけくわせるのが悪いと思って学校へ行ってしまうだろうか。

銀時は言葉を飲み込んだ。

『邪魔はしない……だけど……応援もしねーでいいよな』

土方を奪っていくかもしれない女なんかに気を使う必要なんかない。自分が一番土方を好きなはずなんだから。

開き直ることができた銀時は、嬉しさを隠すように文句を言ってみる。

「お、俺にだって予定があるかもしれねーだろ。なにせバレンタインデーなんだから」

が、ニヤリと笑った土方に、

「来る途中におばさんに会って、“バレンタインなのに予定もなくて寝てるから”って言ってたぞ」

ガツンと言い返されてしまった。返す言葉もない。

「飯は台所にあったぞ。食い終わったらゲームしようぜ」

「………おまえ、弱えーからなぁ」

「うるせぇっ、今日は勝つ!」

バレンタインなのに渡すチョコも告白する勇気もないけれど、とっても幸せな気分の銀時だった。


 おわり



銀時の片想いなだけで終わってしまいましたが、まあ、銀時が幸せならいいか、と(笑)


次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ