学園設定(補完)
□同級生−その1
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#3 2015/04/25
act.1
ある日の放課後、部活のため道場へ行く途中の通路から、裏庭のベンチがちらりと見えた。
銀色の頭をした男が座っていて手元を忙しなく動かしている。
その姿には見覚えがあった。同じ学年の坂田銀時。
あの頭のせいで入学当初から悪目立ちし、すごい不良なのではないかと噂されたが、あれは天然で人柄もいたって良い奴だとすぐに溶け込んでしまった。
その銀時がやっているのは編み物のようで、男子高校生がやることじゃないないなと呆れた。
『やっぱり変わった奴みてーだな』
数日後、また同じ場所にいる銀時を見かける。
前と同じように素通りしようかと思ったら、地面に水色の丸い物が見えた。銀時が編んでいるものと同じ色で、奴が落としたものかもしれない。
一瞬考えてから裏庭に足を進め、水色の毛糸玉を拾ってから銀時に近寄る。足音に気付いたらしく声を掛ける前に顔を上げた。
「…これ、そこに落ちてたぞ」
「まじでか。さんきゅ〜」
初対面の土方に気さくに礼を言って笑う銀時。昨日『変わった奴だ』と思ったことを反省した。
ふと銀時の手元に目をやると、彼が作っていたものはマフラーのようだが、土方から見てもすごく上手いことが分かった。網目が買ってきたやつみたいに揃ってる。
その視線に銀時が気付いたことに土方も気付いて、慌てて言葉を捜した。
「お前…手芸男子か?」
銀時に会ったあと、偶然テレビで“手芸男子”と呼ばれる手芸が得意な男達を紹介している番組を見たのだ。
銀時が笑い出す。
「ぶははっ。意外な言葉知ってんだな、土方くん」
「テレビでたまたま……あ?俺のこと…」
「お得意様だしな」
「?」
意味が分からないという顔をする土方に、持っていたマフラーをかざして見せる。
「この色、お前に似合うんじゃね?」
やっぱり意味は分からなかったが、部活に行く途中だったことを思い出してその場を離れた。
ある日、土方が登校してくると机の上にラッピングされた紙袋が置いてあり、“マフラーです。使ってください”というメッセージカードが挟んであった。
またか、と嫌な顔をするぐらいに土方は女子に人気がある。
カードに差出人が書いてなかったので一応中も確かめるために開けると、見覚えのある色のマフラーが入っていた。
「…この色…」
昼休み、通りすがりではなく銀時の姿を探して裏庭に向かった土方は、目的の姿を見つけるとマフラーを突きつけてやった。
「お前っ!これ、このあいだ作ってた…」
「依頼だからな〜」
バレるのが分かっていたという顔で笑い、銀時はそう答える。
「依頼?」
「俺、部活動で“なんでも屋”をやっててさ、“編み物苦手〜、でも好きな人に贈りたい〜”って女子の依頼を受けて編んでたわけ」
「だからお得意様って…」
「そう。マフラーだの、ジャージ入れだの、差し入れ弁当だの、作った作った」
「それもかよ…」
記憶にある贈り物たちのほとんどが銀時の手によって作られた物だったらしい。いろんな意味でショックだった。
その表情を読んで銀時は肩をちょっと竦める。
「ま、嘘ついてたかもしれねーけど、みんなすげーお前のこと好きなんだってのは分かってやれよ、な」
それが分かるからこいつもこんな依頼を引き受けていたんだろうか。
それでも本当の事が分かった以上、銀時に俺へのプレゼントを作って貰うわけにいかない。
「…お前…もう俺への依頼受けんなよ」
「俺を飢え死にさせる気かぁぁああ!」
「?」
「学校じゃ金はもらえねーからパンとか菓子が報酬だったんだよっ」
それがないと飢え死にするだなんてもしかして貧乏なんだろうか…そう思ったら急に苦労人に見えてきた。
「………じゃあ」
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