学園設定(補完)
□逆3Z−その1
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職員室には明かりが点いていて、土方は繋いだ手を離すと入り口近くの自分の机にまず本を置き、それから引き出しを開けてスペアの眼鏡を探した。
銀時も中に入って持っていた本を隣に置くと、土方は探し当てた眼鏡を取り出して顔を上げたところだった。
『……え……』
明るいところで初めて見た素顔の土方に、心臓がドクッと脈打ち勢い良く血を送り始めたのか、全身の血管がドクドク音をたて……てる気がする。
『ええぇぇぇええ!?な、なにこれぇぇえっ!!』
眼鏡をかけてみたが汚れていたようで、もう一度外し一緒にケースに入っていた小さい布で眼鏡を拭く土方から目が離せない。
『うわぁ…なんか…可愛くね?眼鏡外したら美人って、昔の漫画じゃあるまいしぃぃいい!』
女子が騒ぐぐらいだから元々整った顔立ちをしているのは知っていたが、素顔は可愛いというか綺麗というか、とにかく銀時の好み、ドストライクだった。
綺麗になった眼鏡に満足した土方がようやく銀時を見るが、全身を血が暴走しているせいで顔も手も真っ赤だ。
「さ………坂田?」
心配そうな顔をする土方。もう眼鏡をかけてても可愛く見える。
「せ、先生…」
「どうした?」
「…先生、好きだ…」
「っ!?」
様子はおかしいが真剣な声の銀時の言葉に一瞬ドキリとした土方だったが、
「顔が」
そう言われて表情が凍りついた。
そもそも容姿を褒められるのが嫌いな土方だったし、相手が男子高校生ともなれば愛想笑いでかわす必要もない。
「ああ、そう。手伝ってくれてありがとう。じゃあな」
不機嫌な顔をしたままそう一気に言って、ぎこちない動きの銀時を廊下に追い出すとぴしゃりとドアを閉めた。
しばらくドアの前に立っていた銀時だったが、フラフラと歩き出す。
考えることはいっぱいあるのだが、頭が一つのことで埋め尽くされた。
探していた夢中になれるものが、思わぬところから胸の中に落ちてきた。
翌朝、一晩考えて冷静になった銀時は教室の自分の席に座り、頬杖ついて深い溜め息をつく。
『よく考えたら相手は男じゃん。いくら好みだってどうにもなんないじゃん。ホモじゃないしぃ、女の子が好きだしぃ。しかも顔だけだろ。あんな固くて真面目なのつまんないだろ。結野先生がダメだからってアレはないないない。もう校内は諦めて他所で探せばいいんだよ、そうだよ、そうし……』
銀時が前向きな結論を出そうとしたとき、教室の前のドアが開いて、入ってきたのは巳厘野ではなく土方だった。
その瞬間ふたたびドカーーンと暴走する血流。
『ハイッ、お約束ぅぅううう!!!』
分かっていた。昨日抱いた感情が気のせいとか勢いとかじゃないことは分かっていた。
あまりに不毛な恋だから一度否定してみたかっただけで、もうこの気持ちが止められないって分かってる。
銀時が悶絶している間に土方が話し出した。
「巳厘野先生が少し遅れるそうなので俺がSHRを担当します。じゃあまず出席から…」
そう言う土方の声はいきなりまわってきたお役目に緊張しているようで、そんなところも可愛いなぁと思ってしまう。
「…た………坂田っ」
「は、はいっ」
ぼんやりしていたせいで返事が遅れた銀時を、土方がチラッと見て視線を外す。
『…あれ…』
それだけだったのに少し変な感じがした銀時。
それが気のせいじゃなかったことを確信したのは数日後だった。
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