学園設定(補完)
□逆3Z−その1
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Act.2
高校2年の春。
坂田銀時は国語科準備室の片隅で床に座り膝の上に開いた本を読んでいた。
昔いた国語教師が、図書室には置かないような変わった雰囲気の本ばかり残して行ったそうで、ここに来てそれを読むのが日課だったからだ。
もちろん男子高校生として目的はそれだけではなかった。
「坂田君、先生たちもう帰るけど…」
「俺もうちょっといる」
「そう。じゃあ気をつけて帰ってね」
「先生こそ。新婚なんだから早く帰ってやんなよ」
言われて照れながら一緒にいた女生徒たちと帰って行った結野…結婚して巳厘野になった担任教師。
1年のときに担任になってからずっと気になっていて、担当教科である国語の勉強頑張ってみたり、こうやって準備室に出入りしてみたりしたのだが、何もアピールできないでいるうちに新学期早々結婚報告されてしまった。
『……ま、それほどショックじゃないんだから好きってわけじゃなかったんだよな……』
自分でそう答えを出して、いつの間にか暗くなってきた手元に本を閉じる。
何か夢中になれることを探していた。
それは恋愛が手っ取り早いと思っていたのだが、銀時には譲れない条件があった。
「年上がいい!」
入学当時そう断言した銀時に、同級生で幼馴染の新八は冷静につっこむ。
「この学校には教師しかいませんよ」
事情があって高校受験が2年遅れた銀時にとって、1、2年は年下、3年生ですら元同級生だ。
そこにきて担任になった結野は可愛いし優しいしちょっと抜けてて楽しいし、夢中になれたら良かったけれど憧れで終わった気がする。
『ちょっと似てたからかな………いやいやいや、銀さんマザコンじゃないし』
準備室を出て校庭を見ながらぼんやり廊下を歩いていたから、前からよろよろとした足取りでやってくる人に気付かなかった。
「グッ…いてっ…だぁぁぁっ!」
身体にドスッと何かがぶつかり、次に頭にガツン、足にドサドサッと何かが落ちてきて、一瞬にして体のあちこちに痛みが走る。
銀時はなんとか踏みとどまったが、相手はそのまま後ろによろけて倒れこんでしまった。
「いたた…」
足元に散らばる分厚い大量の本。
漫画なら相手はドジっ子図書委員でそこから青春が始まるのだが、あいにく床に座り込んでいるのは男性教諭だ。
銀時のクラスの副担任になった土方十四郎。融通の利かない真面目そうな奴だが、女子は「メガネ萌え」とか騒いでた。
「大丈夫か、土方…先生」
「ああ、悪い、前見えてなくて。……え、と……坂田?」
名前を呼ばれたが別に驚きはしなかった。副担任になったばかりとはいえ、銀時は目立つ銀色の髪をしていたため誰でもすぐ覚える。
銀時は膝をついて本を集めるのを手伝っているが、土方はキョロキョロと何か探している様子だ。
「何?」
「ん……メガネ落ちてねーか?」
そういえば眼鏡をしていない。
薄暗くなってきたのに廊下に明かりが点いていなくてよく見えないが、床に転がっていないようなのでもしかしてと本を片付けていったら、本に潰されぺちゃんこになりフレームが曲がった眼鏡だったものが出てきた。レンズは無事そうだが掛けるのは無理だろう。
「…あー…」
「大丈夫だ。職員室の机にスペアがあるから」
そう言って眼鏡をポケットにしまうと、よく見えていない様子で本を集める土方。
銀時は小さく息を吐いて、自分が集めた本を持ち上げた。
「手伝う。職員室まで運ぶの?」
「ああ。…ありがとう」
土方が残りを持って立ち上がったのを見てから先に歩き出す。半分にしてもけっこうな重さと量の本を1人で運んでいたんだから、そりゃあ前も見えなかったはずだ。
後ろを危ない足取りで着いてくる土方をちらっと見てから、銀時は本を片手で持ち、空いた左手で土方の右手に触れた。
右手の指を掴まれて土方も反射的に左手で本を持ったものだから、空いた右手はそのまま銀時と手を繋ぐような形になる。
「……おい……」
「見えねーと怖いでしょ」
不満を述べようとした土方に、銀時はあっさり何でもないことのようにそう言った。
銀時にとってはごく普通に自然にでた行動のようで、生徒に手を引かれてるというのは少し恥ずかしくもあるが土方はそのまま職員室まで着いて行く。
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