学園設定(補完)
□逆3Z−その1
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田舎と言っても、正確には、施設で育った父親の面倒を見てくれた血の繋がらないバアさんが住んでる田舎、だった。
両親が亡くなった後も銀時を引き取って数年間一緒に暮らし、元々住んでいた町に戻りたいと言った後も金銭面で援助してくれた。
さらに、都心からだいぶ離れていて畑と水田とジジババが集まる“田舎”でもある。
やることがなくて縁側に転がっている銀時に重いものがぶつけられた。
「銀時ぃ!ダラダラしてんじゃないよっ!」
「……うるせーなぁ」
頭をさすりながら分厚いファイルに八つ当たりする銀時に、お登勢は呆れた調子で言う。
「ったく。田舎は嫌だっていうから都会の学校に入れさせてやれば、進学も就職もしないで帰ってくるたぁ」
「仕方ないんですぅ、やりたいことが見つからなかったんだから」
土方と一緒にいること以外。その土方もいなくなってしまったのだから、本当にやりたいことがなくなってしまった。
戻ってきてからずっと寝てるか食ってるか溜め息をついてるかの銀時。
様子がおかしいと分かっていても、聞きもしないし、優しい言葉もかけないのがお登勢のやり方だ。
「それ大事なもんなんだからさっさと拾いな」
「てめーがぶつけたんだろうが……」
持ち上げたファイルから履歴書のようなものがこぼれ出て、それに目を留めた銀時が息を飲む。
土方の写真、土方の名前。
「!!!! バ、ババア!こ、これ……」
「あ?うちの学校の新任教員だけど」
お登勢は、本職が田舎のジジイどもが愚痴をこぼしにくるさびれたスナックのママなのに、たくさんの土地を転がす資産家だった。
その一つに私立の高校を建て経営していたりもする。
『なんだこれ。んな漫画みてーな偶然てあるか?俺から逃げて、俺の身内(みてーなババア)のところに就職って、どんだけ抜けてんだよ先生。先生。先生っ』
「ババア!俺を学校で雇ってくれ!用務員でもなんでもすっから!」
いきなり元気になった銀時に、手に握り締めてる履歴書の人物についてお登勢は思い出した。
+
数日前に開かれた、新任教員の歓迎会を兼ねたお花見。
みんながいい具合に出来上がってきて、親睦を深めようと込み入ったネタを探りにくる酔っ払いに土方は狙われていた。
「土方先生、イケメンで都会育ちなんでしょ〜。なんでこんな田舎に来たんですか〜?」
今までなら酔っ払いのカラミはスルーしたのだが、見知らぬ土地で上手くやっていこうと気張ってた土方は酒も入っていたので喋ってしまう。
「……ずっと一緒にいてくれってしつこい奴がいて」
「うぉっ、恋バナですかっ?」
「今年学校卒業したんだけど、就職もしねー、進学もしねー、行き当たりばったりその日暮らしができればいいみてーなこと言うんで、そんなんに付き合ってられないから逃げてきたんです」
ドラマみたいな話だったが、顔が良いとそんな話も似合うんだと妙に納得する同僚たち。
「そんなに好きだったんですか?」
「……好きでしたよ……一緒にいたら全て許してしまいそうなぐらいには……」
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『なんて言ってたけど……お前のことだったんかぃぃいいい!!』
好きな相手に将来を心配されて手に負えないと逃げられた不肖の孫(みてーなガキ)に、お登勢は頭が痛くなった。
が、これは銀時が自分も将来も見直す良いチャンスなんだとすぐに気が付き、閃いたことを言ってやる。
「……雑務の人手は足りてるよ。教師だったら雇ってやってもいいさ」
「……教師ぃぃ!?何年かかんだよっ」
1年浪人して今年受験、大学卒業するまでに4年。
「最短で5年。そんぐらい我慢して頑張れなきゃ、本当に欲しいものは手に入らないだろ」
「………ちっ。5年後までババア生きてんのかよ」
「5年でなれなかったら間に合わないかもねぇ」
不満そうではあったが、案外あっさり提案を受け入れた銀時。
土方が逃げ出した理由をちゃんと分かっていたのだろう。
本当はババアの提案なんて無視して学校に乗り込んで会いたかった。
だけどそれじゃ土方は笑ってくれない。もう一度抱き締めることなんてできない。
土方の履歴書を胸に、決意が固まった。
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