学園設定(補完)

□逆3Z−その1
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夕方になって混みあってきた店内は、酒が入る人もいるのか騒がしくなってきた。

先に食べ終わって煙草を吸っていた土方が、銀時が箸を置くとためらいがちに問いかける。

「これからどうする?」

「……俺、先生んち行きたい」

「うち?」

「結局一回も行ったことねーし…初めて行ったときはもう先生いなかった」

土方の胸がぎゅっと締め付けられる。誰かに(おそらく近藤あたりに)住所を聞いて、空っぽの部屋を見たときの銀時を想像したからだ。

「………分かった」

申し訳なさそうな顔をして承諾する土方と、そうするだろうと思って言った銀時。二人とも内心心苦しかった。



定食屋を出て車に戻ってきた土方は、ふと車が汚れているのが目についた。白い車体は汚れが目立ちにくいので、別に誰かを乗せるわけじゃないと長く洗っていない。

『…洗車しときゃよかったな…夜だから目立たねーけど汚い……あ!!!』

そんなことを考えながら車に乗ってシートベルトを締めてから、重大な問題点を思い出した。

固まったまま動かない土方に、銀時が首を傾げたとき呟くように言う。

「……や、やっぱり今日はうちダメだ」

「え!?何、急に」

「いや……ちょっと…無理だった…」

土方が歯切れの悪い言い方をするから、銀時はずっと不安だったことが思い浮かぶ。

5年ぶりに再会して土方は笑って抱き締めてくれたけど、こんな男前、みんなが放っておかないんじゃないか、と。

古臭い“悪い虫除け”メガネは外してコンタクトになってるし、もう30歳になるはずだけど全然そうは見えないぐらい童顔だし。

恐る恐る確認してみた。

「……誰か居んの?」

「あ?違う、そうじゃなくて…」

「じゃあ、いいじゃん」

わざと拗ねるように言ってみたら、土方は困ったような顔をしながらも車を走らせた。

会話もなくずっと何か動揺している感じの土方に、銀時もだんだん不安になってくる。

10分ぐらい走って着いたのは、3階建ての新しい感じの大きいアパートだった。

駐車場に停めると、土方はすばやくシートベルトを外し、

「ちょっと待ってろ。30……15分でいいから」

「ちょっ……先生っ」

「いいから、待ってろ!」

そう言って車を降りるとアパートの中央にある階段に消えて行った。

あっという間のことで見送ってしまった銀時も、“不安”が本格的になってきたようだ。

『なんだよ、やっぱり部屋に誰かいるんじゃねーの。一緒に暮らしてんのかな?』

当然じっと待っていることはできず、車から降りて土方を追った。



3階のある部屋の前で、鍵が見つからず手間取っていた土方がようやく開錠し扉を開けようとすると、後ろからにゅっと手が出てきて、

「おじゃましま〜す」

「さ……おいっ!」

土方をかわし扉を開けると中へずかずかと入っていく銀時。そして……

「……これは……」

ある意味“1人暮らしの男の部屋”らしい感じに酷く散らかった部屋を見てポツリと呟く。

「汚い」

「だっ、だからちょっと待てって言っただろうがぁぁ!!」

追いかけてきた土方が真っ赤になって叫んだ。

「…先生ってA型じゃなかったっけ?」

「A型が全員きれい好きだと思うなぁ!」

こんなに赤くなるほど恥ずかしいと思うのなら片付ければいいのに、と意外ときれい好きの銀時は思ってしまう。

だけどおかげで不安は吹き飛んだ。こんな部屋では誰かと一緒に暮らすどころか、誰かが遊びに来てることもなさそうだった。

銀時が笑っているので、赤い顔のまま不機嫌になる土方に提案してやる。

「片付けるの手伝うよ。二人でやったほうが早いでしょ」

部屋に来るのが目的だった銀時がこのまま帰るなんてことはないだろうし、5年前に週末ごと銀時のアパートに行っていたから彼がきれい好きだったことは分かっているので土方は早々に諦めた。



銀時の指示でてきぱきと掃除を続ける中、まずキッチンとリビングのゴミを片付け終わった銀時は、掃除道具がほとんどないのに気が付いた。

「……先生……このアパートに住んで何年?……まさかずっと……」

「違うっ。秋に知り合いの紹介で引っ越してきたばっかりだよっ」

それでも半年近くになるんだろうが、どうやらろくな掃除をしてこなかったらしい。

小さく溜め息を付いてから、

「俺、ちょっと掃除道具買ってくる」

脱いでいた上着を着ながらそう言った銀時に、慌てて土方が寝室から出て来た。

「俺が車出して行ってくるよ」

「いいって。すぐそこにドラッグストアあったじゃん。先生は寝室とリビングの私物、欲しいモノちゃんと分けといてくださいぃぃ」

「………はい」

しゅんとした土方が可愛かったので、銀時は満足げに軽い足取りで部屋を出る。

来る途中に車から大きめのドラッグストアがあったのが見えていた。

そこで一通りの掃除道具をカゴに入れレジに向かおうとしたとき、ふと思いついて足を止め、くるりと踝を返す。

銀時が向かったのは“男の嗜み”のコーナーだ。

『先生がフリーっぽいからってソッチを期待するのはなんだけど……まだ気持ちも確かめてねーし?……でも、もし、俺のことまだ好きでいてくれるんだったら……我慢できねーもん、無理だもん、もう限界なんだもんっ!!』

棚を食い入るように見つめて考え続ける。

『だからって準備なんかしてたら始めからそのつもりだったと思われるかな………はっ!先生だって男なんだからちゃんと持って……たら、それはそれでやだしなぁ……今はフリーでも誰かと付き合ってたかな……俺を忘れるために、とか、さ…』

落ち込んだり自惚れたりしながら佇む銀時は、場所が場所だけに“男の切ない訳有り”臭が漂っていて哀れだった。



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