学園設定(補完)
□逆3Z−その1
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一通り材料を入れて歩いて行くと、惣菜売り場で、プラスチック容器に入った簡素なお節が置いてあるのに気付いた。
12月に入ってからコンビニなどでやたら豪勢なお節のお重セットの予約チラシを見ているから、このシンプルさは物珍しい。
「今はこんなのあるんだな。買うか?」
「え、鍋とお節?」
「明日用だ。2人じゃ多いかな」
あっさりと当然のことのようにそう言った土方に、銀時はようやく泊まって行ってくれる気なんだと知って嬉しくなった。
正直お節なんて若者向きの美味しいものが入っているわけではないが、銀時はテンション高めに答える。
「だ、大丈夫っ。甘いのは俺が食うしっ」
甘い物しか入っていないような小さなお節をカゴに入れながら、
「あとなにか必要か?」
土方がそう言ってくれたので、もう一つ大事なものを思い出した銀時が叫ぶ。
「餅っ、餅も食いたいっ!」
「正月は餅だよな」
鍋のための卓上コンロは土方が持参してくれたので、餅とそれを焼くためのアミ、ついでに海苔と、
「雑煮の材料ってなんだかったな…」
そう呟いた銀時に、土方が怪訝そうな顔をする。
「雑煮なんて作れねーぞ」
「大丈夫、俺が作るから」
「………んで雑煮なんて作れんだ」
「バアサンに教わった。うちのババアは年寄りのくせに、男だって家事炊事ぐらいできねーと、っていろいろやらせられたから」
そういえば初めてアパートに行ったときも銀時の部屋はきちんと片付いていた。
見た目は普通…というか髪の色だけ見れば一見チャラそうな銀時が、家事完璧となればそれだけでかなり高評価なのではないだろうか。
『顔も性格も良いし……女にモテそうだよな』
そう考えて土方は胸がもやっとするのを感じ、そんなことを思った自分に恥ずかしくなった。
店内をもう一周回ってレジに来たときは、男2人、2,3日分の食料とは思えない量の買い物になってしまい、
「俺も半分出す」
そう言い出した銀時に、土方は半笑いで言い返す。
「俺が言い出したんだから、いいんだよ」
「………給料安いんじゃねーの」
「心配されるほどじゃないわぁぁ!!」
確かに高給取りではないが、生徒に心配されたのかと悲しくなって、土方はツッコミが鋭くなってしまった。
二回目の来訪になった銀時のアパートに入り、土方は突然、前のことを思い出してしまった。
今こうしているってことは、銀時と、生徒と寝てしまった自分を認めてはいるが、恥ずかしくないかと言えば別である。
先にドカドカ入って行く銀時の後ろから、赤くなってしまった顔を落ち着かせるよう努力しながら着いて行った。
鍋なので基本的には材料を切るだけだが、やはり銀時の手際は良い。
味付けも、売ってる鍋用スープを買おうとしたのだが適当でも美味いからという銀時の言葉通り、適当に入れてるように見えた調味料も絶妙な味加減になっていた。
高校の時から1人暮らしをしていたものの、焼く、茹でる、お湯を入れる、外食で過ごしてきた土方が大した手伝いも出来ないでいるうちに、9時前にはコタツに着席。
「んじゃ、今年もお疲れ様でしたっ」
「お疲れ」
一本だけだからなと念を押されたビールで乾杯し、鍋から小皿に取り分けて土方に差し出す銀時はすごく嬉しそうで、それを見ているだけで土方も心が温かくなる。
『近藤さんとだったらこんな風じゃないだろうな』
卓上コンロが家にあったのは、近藤や剣道部の後輩などが何度か家にきて同じように鍋をやったからだったが、楽しかったけれど今とは少し違う気がした。
銀時が垂れ流しで与えてくる愛情に酔っているような気分だ。
鍋を平らげ満腹、コタツに入って暖かい部屋でビール。そうしてぼんやりしている間に時間は23時になろうとしていた。
テレビでは人で賑わう超有名なお寺の映像が流れていて、土方は気になっていたことを思い出す。
「そういえば、二年参り、行きたかったか?」
電話では素直に答えて鍋にしてしまったが、“二年参りは家族との思い出”ということもあるかと後で考えたのだ。
隣に座っていた銀時が慌てて、それでもごまかしても意味がないと悟ったのか言いにくそうに答える。
「いや、あの……えっと………先生と一緒に居たかっただけだから、別になんでも……」
「…そうか…」
可愛いことを言い出す銀時に土方が笑う。
その笑顔が今まで見た中で一番綺麗だって思ったら、銀時が(一応)我慢してきた理性が揺れた。
身体を乗り出して顔を寄せてみたら、土方は避けようともせず目を閉じてくれたので、銀時は嬉しそうに笑って唇を重ねる。
小さく大きく何度も繰り返されるキスに、それだけでは済ませる気がないことを察した土方が、身体をちょっと離して咎めた。
「聞こえねーのか?」
「…何が?」
「除夜の鐘」
テレビから静かに鐘の音が聞こえている。
「煩悩を払え」
「………無理っ。先生がエロくて108つぐらいじゃ払えません〜」
「人のせいにすんなっ」
力無い抵抗をする土方を抱き締めて、銀時は一週間前に感じた幸せをあっさり更新してしまったことに喜びを感じていた。
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