学園設定(補完)
□逆3Z−その1
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Act.6
新任教員の挨拶の最中も、まだ信じられないという気持ちで土方は銀時を見つめていた。
高校3年生、しかも銀時は2年遅れていて当時20歳だったのだからさほど見た目が成長するわけではないのに、大人びた風体と態度に胸が熱くなる。
『なにドキドキしてんだ……あんな酷いことをしておいて、ずうずうしいだろ』
銀時が笑ってくれたから会いにきてくれたことを嬉しく思ってしまったが、何も言わず逃げてしまうなんて酷く傷つけたはずだ。
今なら、あんな方法をとらなくても説得できたんじゃないかと思える。ずっと後悔して、でも戻ることもできなくて。
笑って呼びかけられる夢ばかり見ていた勝手な自分に、銀時が呆れないか不安だった。
「先生っ」
「…あ?…」
「もう終わったよ」
銀時に声をかけられて土方は辺りを見回す。
いつの間にか顔合わせは終了していたらしく、休日だったこともありほとんどがさっさと帰宅してしまったようだ。
「…そうか…」
銀時のほうから土方に寄って行って話しかけたことに、残っていた教師が興味有り気な視線を向けたので、何か詮索される前に土方は立ち上がって部屋を出る。
後から着いて来た銀時が一歩後ろから躊躇いがちに問いかけた。
「…先生は…これから何か用事ある?」
ドキリとした。
話をしなければならない、置いてきた自分のことと追いかけてきてくれた銀時のことを。
それを考えると少し気が重い土方に銀時は、
「…俺さ…………腹減っちゃったんだけど」
そう言って絶妙なタイミングで腹を鳴らすから、思わず小さく笑ってしまった。
「じゃあ、飯でも食うか」
「うんっ」
「何が食いたいんだ?」
「何でもいい。先生がいつも行く店とかねーの?」
まず二人が向かったのは学校の駐車場。
奥に停めてあった白い軽自動車の前で土方が立ち止まったので、銀時が驚いた声を上げる。
「え、先生の車?運転すんの?」
「この辺は車がないと不便だからな」
「あー、だよね。電車もバスも終わるの早いし」
田舎なので元々本数が少ない上に、教師が帰る時間にはさらに減っているためたくさん待たされたりするのだ。
土方も1人暮らしで出歩く趣味もないしと電車とバスを利用していたが、待ち時間の長さに疲れてしまい、知り合いから中古で譲ってもらった車で通うようになった。
車を運転するという初めて見る土方の姿を、助手席に乗った銀時が物珍しそうに見つめている。
その視線が気になってしまい、
「……あんまり見るな」
と言ったら嬉しそうに笑われた。
「無理。久し振りなんだから見せてよ」
そう返されてしまうと我慢するしかない。必死に気持ちを落ち着かせて運転に集中する努力をした。
そうして到着したのが、ごく普通の、田舎の定食屋さんです、みたいな店だ。
店内に入ると元気に挨拶をしてきた親父も、ごく普通の、田舎の定食屋さんの親父で、土方が1人じゃないことを珍しがっている。
「いらっしゃい、先生っ。連れがいるなんて珍しいねっ」
親父の言葉に土方は気まずそうだが、銀時は嬉しかった。仲良しの教師とか、付き合ってる人とか、少なくともここには連れて来ていない。
「先生はいつものだねっ」
「あ!………や…いつものでいい」
「?」
土方の様子がおかしかった理由は、数分後に分かった。
「はいよ、お待たせっ。土方スペシャル一丁」
「………」
運ばれてきた“土方スペシャル”は、おかず、味噌汁、漬物。そしてどんぶりには、ご飯が見えなくなるぐらいてんこ盛りのマヨネーズが乗っていた。
難しい顔をしながら顔が赤い土方と、もう慣れてしまったので驚かない親父と他の客。
「………くっ…あははははははっ!せ、先生、相変わらずだなっ」
弾かれたように笑い出した銀時に注目した親父たちが無理もないと納得しているから、土方は余計に恥ずかしかった。
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