学園設定(補完)

□逆3Z−その1
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Act.5


坂田銀時は毎日幸せだった。

教師である土方十四郎と付き合うようになって早五ヶ月。

教師と生徒、しかも男同士という禁断で極秘な関係も、シチュエーションと思えば萌える(と言ったら土方は殴るけど)。

二人きりの時間は週末に銀時の部屋で会う程度のもので、偶然を装った食事ぐらいしか外では一緒にいられないが、同じ学校なので毎日顔を見ることができた。

しかも春から担任教師にレベルアップしてくれたおかげで、数学の授業以外でも堂々とあの綺麗な顔を眺めることができる。

それに放課後の数学科準備室で、他の生徒が来るまでの短い逢瀬も楽しめるし、本当に幸せだ。


だが、準備室の片隅で土方を抱き締め幸せをかみ締めている銀時に、

「お前、これからはあまりここに来るな」

と土方は厳しい声で言い放つ。

「えええっ、なんでぇぇ!?」

気分が舞い上がっていただけに、よけいショックだった銀時が情けない顔をしているので、土方はくっついた身体を剥がしながら答えた。

「お前のクラスの担任になったんだから、一人と仲良くしてたらマズイだろ」

「?何が?」

「……進路とかで贔屓してると思われたら困るだろーが」

去年、銀時がまだ土方に片想いしてるころから過度な接触はしてこなかった。

準備室に日参している件はテストで100点を取ることで意味を持たせたが、おかげで土方に教われば数学で点数が取れると一時期準備室は大賑わいになり非常に邪魔だったりもした。

それでも3年生、クラス担任となると、他の生徒が将来について悩んで不安な時期に誰かを特別扱いしているなどという思いはさせたくない。

土方が危惧していることに気付いて銀時はあっさりと言った。

「ああ。大丈夫、俺、進学しねーから」

「えっ!…就職するのか?」

「就職もしない」

「じゃあ、何を……」

「留年して先生と一緒にいる」

「………」

「…なんてぇ、ベタなことは言いませんんん」

『コイツは何を言い出すんだ』という呆れた顔をしたのを見てから、銀時はニヤニヤ笑う。からかわれたらしく、土方は溜め息を付いた。

まだ5月だ。幸い去年土方の気を引くために上げた成績は落ちていないし、進学でも就職でもまだ時間をかけて考えても遅くはない。

普段から笑ってばかりでいい加減そうに見える銀時だが、やればできるのは成績のことだけでも証明できた。

本人がやる気のないうちは何を言っても無駄だろうと、土方はこの場は深く問い詰めないことにした。



が、言われないことをいいことに、銀時は夏になっても決めようとしない。

他の生徒たちが着々と進学のための勉強だったり、就職活動だったりをはじめるようになると、土方も黙っていられなくなった。

「何かやりたいことはないのか?」

「ないなぁ」

「好きなことは?」

「先生とせっ……痛いっ」

銀時の過去を知ったあとから銀時が笑って楽しそうにしているのが一番良いと思っていたのだが、真剣な話をしたいときのこのいい加減さは厄介だ。

とりあえず進学してやりたいことを見つける、なんて月並みな考えが浮かんだがそんな簡単なモノじゃないことに気が付いた。

銀時には両親が亡く、おばあさんに引き取られたと聞いているし、進学するには金がかかる。

「……もしかして金の心配か?だったら……」

「ああ、そっちは大丈夫。うちのバアさん小金持ちだから、進学するなら金は出してくれるって」

「…………だったら何が問題だっ」

土方が悩んでも悩んでも軽く切り返してくる銀時に、さすがにイラついてきた。

しかし銀時は、

「金の心配はねーけど、とりあえず進学してやりたいことが別方向だったら?やり直すにしたって金がもったいないだろ。だからもうちょっと考えたい」

そう急に正論で言い返してきたりする。そんなことを言われたら黙るしかない。

銀時なりにいろいろ考えているのは分かるし信用したいとも思っているのだが、チクチクと口出しせずにいられないまま季節は秋から冬に変わろうとしていた。



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