学園設定(補完)
□逆3Z−その1
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Act.3
職員室で土方十四郎は、2学期末の数学答案用紙を握り締め苦悩していた。
『次の中間で100位以内に入れたら、放課後時間とってやる』
それから始まった坂田銀時との賭けは今のところ土方の全敗だった。
『前回よりも良い成績(順位)を取る』
その賭けを基本に、1学期末:お昼は学食の同じテーブルでご飯、2学期中間:校内の自販機で週に一回お茶、となんだか仲良しになってしまい、担任の巳厘野にまで「坂田くんと仲良くなってくれて嬉しいわ」などと言われる始末。
そして2学期末試験のご褒美にはもじもじしながらこう言われた。
「せ、先生と……外で会いたい」
『……外……さすがにそれは』
「…まずいだろ」
「一回!少しでいいからっ」
校内で少しでも一緒にいたい的な内容だったので忘れていたが、こいつ俺のこと好きなんだよな、と思い出した。
連敗続きなだけに、負けそうな賭けには出たくない。
「……いつもの条件じゃ乗れないな」
「え〜〜っ。ん〜、じゃあ………2学期末の通信簿で学年50……や、40位以内でどうだ!」
自信有り気に銀時はそう言ったが、今までの成績から考えると期末でかなり良い点を取らないと50位以内も難しい気がする。
それに通信簿となると、試験のない教科の点数も加算されるわけで、
「………分かった。やってみろ」
そう答えた土方に、やっぱり銀時は笑顔全開。
そして手に握り締めた答案用紙、銀時の2学期末の数学は当然のように100点だった。
というか、最初の賭けから数学はいつも100点なので通信簿の参考にはならない。
副担任という立場では、他の先生たちに銀時の成績だけ聞いて回ることもできず、もしかしてもしかするのかも、と悩んでいたのだ。
悩み疲れてふと銀時の答案用紙に目をやると、意外と整った読みやすい字をしていた。
意外といえば、銀時とちゃんと会話をした時からずっと意外なところだらけだったと思う。
手を引いて歩いたこと、顔を好きだと言ったこと。
後日「この程度の顔ならもっと他にいるだろ」と嫌味も含めて言ってやったことがある。
+
「顔が好きだ〜と思って見てるでしょお。そうすると先生のいろんなところが見えてくる。先生、マヨラーでしょ?」
「えっ!なんでそれを…あ…」
「ひひ。学食でサラダとかにマヨネーズかけてるけど、物足りないって顔してる。ホントはご飯にもおかずにもどぱーっとかけたいんだろうなって」
学校でそれをやったら引かれるのが分かっていたので我慢していた。
「あと、煙草吸うよね?時々、無意識に胸ポケットに手をやることがあるんですよ、これが」
学校で生徒に煙草は吸うな、身体に悪いと言っておきながら自分が吸うのは違うんじゃないかと思ってる口なので、生徒の前では吸っていない。
「真面目で面白くて一生懸命なとこ、み〜んな、か………良い先生だなって思ってるんだよコノヤロー」
「自分で言って照れるな」
+
賭けの内容にしてもそうだ。
一緒にいる時間が増えたらもっとがっつり言い寄ってくるのかと思いきや、準備室で他の先生や生徒がいるときはほとんど話かけてこない。
学食でご飯も自販機でお茶も、偶然一緒になった生徒と副担任です、みたいな雰囲気で嬉しそうにしているだけだった。
『どうしたいんだろうな、あいつは』
近づきたいのかと思えばそうでもなくて、そうでもないかと思えば近づいてくる。
それに対してグラグラ悩んでばかりいる自分、銀時をどうしたいのか。
2学期終業式の前日、担任から通信簿が配られた。クリスマスイブに大半の生徒を落ち込ませる憎い演出である。
そんな中、HRが終わって新八が声をかけると、
「銀さん、今日は…」
「悪ぃ、報告してくる」
銀時はそう答えて通知表片手に嬉しそうに笑って教室を出て行った。
どうやら賭けはまたしても銀時の勝利だったようだ。
銀時から「土方先生が好きなんだ」と聞かされた新八は、当初こそ微妙な心境だったものの、銀時が頑張ってる姿を見て“叶わぬ者に恋をしている者同士”応援したくなっていた。
言ったら「アイドルオタクと一緒にすんな」と言われそうだが。
だが最近、土方の様子を見ていると銀時のは本当に“叶わぬ恋”なのかと思える。
今も銀時が教室が飛び出して行くのと同時に、廊下の柱に隠れた土方に気付いていた。
なんだかんだで銀時の希望を叶え続け、優しくしてやり、意識しまくってる土方は、新八から見ても少し可愛く見える。
『大人にも、何かきっかけが欲しい時ってあるんだろうなぁ』
どうしたらいいかなと思ったとき、クラスメイトが1人、新八のところへやってきた。
「お前、なんで坂田に“さん”付けなんだ?」
「ああ、銀さん2つ上だからね」
「えっ!?そうなのか?浪人?」
廊下に隠れていた土方にもその会話は聞こえていて、そうなのか?と初めて知る。
そういえば、大人っぽいなと思ったところもあるが、普段が周りの生徒たちと違和感がなさすぎて気付かなかった。
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