学園設定(補完)
□逆3Z−その1
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#6 2015/05/13〜
Act.1
「先生、明後日どっかでかけようよ」
風呂から戻ってきた土方に、ベッドに裸のまま寝転んだ銀時が言う。
「……明日は卒業式だろうが」
「だからですぅ。明後日にはもう教師と生徒じゃないじゃん。やっと堂々と遊べる」
本当に嬉しそうに笑う銀時に、土方が見せる表情は暗い。
年が明けてから土方はどんどん忙しくなって笑わなくなっていた。
初めての3年生受け持ちで大変なんだろう、それも一応明日で終わるし、と銀時は楽観的に考えてきた。
進学も就職もしなかった銀時。
去年の春からずっと土方に進路を決めるように言われ続けたが、今やりたいことは“土方と一緒にいること”しか思い浮かばなかった。
新学期が始まるまでは、今までやっていたアルバイトだけにして土方と遊び、その後にもう一つぐらいバイトを増やそう。
公務員なのに教師はけっこう時間も休みも不規則になりがちだから、自分が土方に合わせればいい、そう思っていたからだ。
「……明日で最後だしな」
「うん。先生、明日俺達をより先に泣くなよ」
生意気を言って笑う銀時の柔らかい髪をくしゃりと撫でてやる。
卒業式。前日までは何でもないことのように笑ってても、当日になってみれば実感が湧いて悲しみも増す。
教師になって3年目の土方は、担任の産休により副担任から繰り上げられ、慣れないことに戸惑いながら生徒たちを見守ってきた。
幸い副担任のときから懐いてくれたので上手くやってこれたと思うが、思い出すのは困らせられたことばかりだ。
「卒業おめでとう。お前らにはさんざん苦労かけられたから全員卒業してくれて嬉しいよ。これから会うことは……ほとんどないだろうけど、初めて見送ったお前らのことはずっと応援してるから、頑張れ。…ありがとう」
最後の教壇に立ち、土方らしい短い言葉を贈り、土方らしくなく涙を落とした。
それを見た女生徒たちが泣き出し、男子生徒たちもしんみりとする中、銀時だけが小さく笑う。
『あーあ、やっぱり泣いてら。可愛い』
在校生と教師に見送られて学校を出て行く3年生たち。
土方の前から生徒が途切れたとき、銀時がすれ違いながら小声で言った。
「先生、また明日、な」
それに答えるように土方が笑う。
笑った顔をひさしぶりに見て、銀時も嬉しくなり笑って通り過ぎる。
今日はクラスの連中で集まることになっていた。
もちろん土方も誘ったのだが、「今日は忙しい。卒業したからってハメ外すなよ。呼び出されるのは迷惑だから」と釘を刺されてしまったので、教師抜き、酒抜きの健全なパーティーになるだろう。
土方は、クラスメイトとワイワイ言いながら学校を出て行く銀時の背中を見つめる。
見えなくなるまでずっと。
翌日、10時ごろに目を覚ました銀時はとりあえずシャワーを浴びた。
昨日は言い付けどおり健全に、全員ジュースでテンションを上げて盛り上がった。
都心に近いのでほとんどが地元に残ったが、次に全員で集まることなんて同窓会ぐらいのものだろう。
仲が良いクラスだったので寂しくなるとみんなは言うが、土方とのハッピーライフしか見えてない銀時は機嫌が良すぎて気味悪がられたりした。
そして昨日より更に機嫌の良い銀時は、テーブルに置いた携帯電話の前でスタンバイ。
昼前には連絡をくれるはずだ。
銀時には卒業を機に、土方にお願いしたいことが一つあった。
『名前で呼びてーなー』
付き合ってるときは2人きりでも先生と呼んでいた。
“そのほうがエロくて興奮する”と言ったら殴られたが、あの頃は名前で呼ぶなんて照れくさくてできなかったのだ。
『…先生…』
『………もう先生じゃないだろ』
『…じゃあ…十四郎?』
『銀時』
「なぁぁんちゃってぇぇええ!!」
妄想で赤面しながら床を転がり、幸せだなと考える。
だが、昼をだいぶ過ぎても土方から電話はかかってこなかった。
「?」
こちらから電話してみても“電源が入っていない”と音声ガイダンスの応答のみで銀時は首を傾げる。
夕方になっても連絡はなく、同じ応答しかしない携帯を閉じてさすがに不安になってきたが、銀時にはそれ以上何もすることができなかった。
土方とは、たまに外、それ以外は1人暮らしの銀時のアパートでしか会ったことがない。家を訪ねたくても場所を知らない。
『学校!』
そう思いついて学校の電話番号を調べてかけてみたが、どうやら遅かったようで誰も出なかった。
銀時が知らないのに、クラスの連中が土方の住所を知ってるとは思えない。
結局そのまま一晩、眠れず、携帯を見つめていた。
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